時空の騎士
□(悪魔編)第一章 時空転移
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第1章:時空転移
暗い世界。暗い部屋。
そんな部屋の片隅に、一人の少年が膝を抱えて座っている。その少年は窓から見える世界だけを眺めてた。
あぁ。なんて狭い世界なんだ…と窓から見える範囲を世界の全てだと思っていた。
少年の名はキース。彼は生まれつき体が弱く、幼い頃から入退院を繰返してた。その為、彼には友達などいなかった。
そんな彼の父親は、この国を救った英雄と言われていた。その息子であるキースを、人々は期待していた。だが、彼の体のことを思えば、その期待を裏切らざるを得なかった。
その期待が、キースにとってかなり重くのしかかっていた。
ある日、キースはいつもより体の調子がいいので、家の掃除をしていた。母親は彼の治療費を稼ぐ為、朝から晩まで働いていた。
その為、家のことが疎かになり、昔は夫婦喧嘩が絶えなかった。今では使用人がいて、ある程度はその人がやってくれるが、今日にかぎってその人がいない。
だから、キースは家の片付けをしていた。
「…今日は静かだな…」
そう思ったのはある程度片付けが終わった頃だった。いつもなら、しつこいくらい囁く声が今日は聞こえない。
その声も、最初は混乱していたが、だんだん慣れて来て、今ではそれが当たり前になっていた。声が聞こえないことに不安を覚えて、そんな自分がさらに不安だった。
「バカじゃないのか?聞こえないことが普通だろ」
自分に突っ込みを入れる。そして、頭を振り思考を無理矢理中断。冷静になって、改めて今の作業に取り掛かった。
夕方、いつものように一人で本を読んでいると、玄関から物音が聞こえてきた。
「…父さん?」
そう思って玄関の方へ行ってみると、そこには誰もいなかった。
「‥‥‥」
少し周囲を見渡して、首を傾げて部屋に戻る。
「…なんだったんだろう?」
再び本に目を移したとき…
ガタッ
「…まただ…隣の部屋から…」
キースは立ち上がって物音がするところに行った。やっぱり、物音がするところには誰もいない。
―‥‥て‥‥―
「え?」
突然背後から声が聞こえた。勢いよく振り返ると母親が驚いた顔して立っていた。
「…か、母さん…お帰り」
母親はキースを驚かせようとしていたが、逆に驚かせられたことに少し不機嫌だった。
「今日は調子がいいようね?」
「え?あ、うん。取り敢えずね…」
母親の唐突な質問に、少し戸惑いながら応えた。母親は「そう」と、一言言うだけで、それ以上は何も言わなかったし、キースも何も話すことがなかったので、沈黙が続いた。
「そう言えばさ…」
夕飯を食べ終えた後、キ-スは夕方のことを思いだし、母親に尋ねた。
「夕方、俺の後ろで何か言った?」
キースの質問に母親は何のこと?とでも聞きたそうに首を傾げた。
「…何でもない。俺の勘違いだった」
キースはそう言って話しを中断させ、部屋に戻って床についた。