2周年記念企画

□記念日には貴方に愛を
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記念日には貴方に





「今日は何の日ー!?」




 煙管を咥え、その味をしっかり堪能している高杉に、銀時が勢い良く詰め寄ってきた。

 その勢いに驚き、うっかり煙管を落としそうになるその動揺を富士山よりも高いプライドで捻じ伏せ

 代わりにいつもより剣を3割増やして彼を睨みつけてやる。




「あ゛ぁ?」


「だから、今日、10月31日は何の日でしょう!」


「………ハロウィン」


「え、ちょ!おまッ!違うから!俺と晋ちゃんがお付き合い始めた日だからねコレ!!」


「……そうだったか?」


「ヤダこの子!典型的なイベントごとに疎い彼氏そのものなんですけどッ!

 てか覚えてる銀さんなんか悲しくなってきた……」




 目の前で、よよよっと悲劇のヒロイン宜しく床にへたり込む銀時を目で追い、一つ溜息。




「大体、覚えててそれがなんになるんだよ」


「口実」


「……なんの」


「愛を確かめ合うとか?」




 先程までの主演女優賞ばりのヒロインはどこへやら。

 今は完全なるエロ親父そのものの、にやけた笑みを浮かべ下から高杉を見上げている。

 これが、可憐なる少女や妖艶なる遊女にでもやられようものなら、理性の紐を引き千切ってしまう破壊力も

 この男がやれば別の紐が引き千切られそうだ。



 ひくりと、口の端を引きつらせ、なおもニヤニヤと自分を見る男に言葉を投げる。




「ほぉ…テメェと俺が、か?」


「他に誰がいるってんだ」


「発情期の雌犬にでも腰振ってろや」


「お、言うなぁ高杉。すんげぇ下品な発言に銀さんドキドキしちゃう」


「頭湧いてんな」


「そりゃ、俺とお前の記念日だからな」


「だから、なんの関係が」


「こんな日ぐらいしか聞いてもらえなさそうなお願い事のためなら、銀さん幾らでも発酵してやるぜって話」


「ッ……」




 いつもならこのぐらいで引き下がるかもしくは別の手を考えてくるはずなのに、なんだ今日は。

 今日の奴はどうにもしつこい、しつこすぎる。



 というか、なんだこの余裕は!

 あぁもう、本当に腹が立つそのニヤケ面! 



 と、うっかり握りつぶしてしまいそうになっていた煙管が悲鳴を上げる。

 それに気付き、高杉は気を紛らわせるために煙管を再び咥えなおし、脳内をフル回転させた。


 
 とにかく、まずはこの事態をまとめるべきだ、その通りだ。

 銀時曰く、今日は交際記念日でそれを口実に愛を確かめ合いたい、らしい。

 ところが高杉は、全くもって乗り気ではない。

 いや、嫌いなわけではない、むしろ快楽は大好きだ。

 なのだが、今日は残念ながら気分ではないわけで。

 なんだかんだで最近はバタバタと忙しかったのもあり、今日は銀時の家でジャンプでも読みながら

 のんびりする予定できたのだ。

 ついでに定春とじゃれたいという、密かな野望も胸に秘めて。

 

 だからつまり、結論から言うと




「帰る」


「はっ!?」




 どうも今日の銀時に勝てる気がしない。

 このままではなし崩し的に銀時の思惑通りになってしまいそうだ。

 だが、今日は無理だホント勘弁してほしい。

 そう言ったところで、本性サディストな銀時はかえって喜びそうなので、もうこれは帰るしかないだろう。

 誰だって自分の身体は可愛いんだ、だって人間だもの。

 ついでに定春くんもお出かけのご様子だし、これじゃあ野望は叶えられない。



 ソファから腰をあげ、窓を開けて外に出ようとするが、それよりも訳の分からない速さで腕を掴まれ




「イ゛…ッ」




 思いっきりソファーに引き戻され、そして目の前に銀時が来たかと思えば、両脇に手を突かれた。

 そうまるで、




「逃げるなよ」




 あぁ、まさにそんな顔だ。

 すごく懐かしい、白夜叉を彷彿させるその顔はまさにサディスト。

 そして、きっと俺は




「……ハッ、もっと早くそういう顔しろってんだ」




 俺は、とても愉しそうな顔をしているに違いない。



 高杉は、銀時が自分の両側に手を置いてるのをいいことに、その襟首を掴んで引き寄せ、唇を奪う。

 先に仕掛ければ、すぐに応戦されるソレは、まさしく呼吸の奪い合い。

 お互いに譲らないまま接吻を交わすが、下にいる高杉の方が分が悪く、先に息が上がってしまった。




「ッ…ッ……退けっ」




 頬を伝う唾液を拭いながら銀時を押しのければ、彼は一度ぺろりと唇を舐めて口角を上げる。




「ゴチソウサマデシタ」




 嗚呼、正直に言おう。

 お前のその顔は、反則だ。




「それで満足かよ、」




 ゾクリとするほど、お前のその顔はエロいんだ。

 それが、計算されての表情だとするなら、あぁやはりお前はとんだ食わせ者だ。



 すると、銀時はくくくと喉で笑い、先程とは違った穏やかなキスを高杉の右瞼に送る。




「嫌だ、晋ちゃんったらエロい表情しちゃって」




 銀さんをこれ以上煽ってどうしようってんのさ。

 そう囁くように、耳元をくすぐるその声に、高杉は至極愉しそうに綺麗な弧を描きながら




「“愛を確かめ合う”んだろ?」




 その口から零れ落ちた声は、最後を紡ぐと同時に閉ざされ、そしてそっと目の前の首へと腕を伸ばした。

 絡まる腕の重みに、目の前の彼は再び口角を上げて、その白い腕に一つ口付ける。




「仰せの通りに」




 記念日には貴方へと愛を。

 記念日には貴方から愛を。



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