犬夜叉

□変わらず、そばに
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「いってきまーすっ」
「りん」
元気よく駆け出した少女に向かって、殺生丸の呼ぶ声が響く。
「なあに?殺生丸様」
「……いや、あまり遠くへは行くな」
「? はぁいっ」
忠告を受け取ったりんは、曖昧な認識ながらも返事をして再び駆け出していった。

日に二、三度りんは殺生丸から離れて畑や森を駆け巡る。いつもの習慣だ。殺生丸はたかが人間のために食べ物をとって来てはくれない。だからりんが自分でとりにいくのだ。
いつもの事だが、ただ、今日だけは殺生丸の目が。何故か少しだけ――少しだけりんには不安そうに見えて。
(あの殺生丸様の事だから気のせいかもしれないけど)
りんにはあの目が、違うように見えたのだ。



「あ、畑!」
遠くのほうに、小さな畑を見つけた。今日のご飯はあそこからもらおう、そう決めたりんは畑に向かって走り出す。
「ちょっと遠いなぁ」
ぴた、と足が止まる。
『あまり遠くへは行くな』、殺生丸の言葉がりんの頭によぎる。
「…………。そんなに遠くないよね?お腹すくんだもん、しょうがない、よね」
りんは自分に言い聞かせながら、もう一度足を走らせた。近くに着いてみると畑には瓜が思った以上に見つかった。
「また瓜かぁ。でもいっぱいある♪これならちょっと貰っても分かんないよねーっ」
手前にあった瓜をひとつ、手にとって口に入れる。カリ、と音がして、かじった部分が口に入った。
ひとつを食べ終わり、もうひとつ瓜に手を伸ばす。
その時、大人の怒鳴り声が響いた。
「何してんだッ!?」
どうしよう、見つかった。
りんは声の主を見もせず、一目散に走った。
「おい待てっ!」
走る。とにかく、走る。追いつかれないように、遠くへ遠くへ。

「はぁっ、はっ……」
とりあえず、追いかけてきた人の影は見えなくなった。もう大丈夫、なはず。
「ふ〜」
一息ついて、辺りを見渡す。
「あ、れ?」
ずいぶん遠くに来てしまったみたいだ。景色が全然違っていた。
「どうしよう」
『あまり遠くへは行くな』
殺生丸の言葉が頭に響く。あぁ、ちゃんと聞いておけば良かった。今更思ったところで仕方の無い事だけれど。
「殺生丸さま……」
つぶやいて、うずくまる。
どちらから来たか、方向すら分からないのだ。下手に動けばもっと遠くへいく事になってしまう。かと言って動かなければ元の場所へ戻る事は出来ない。身動きがとれない。
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