犬夜叉

□ゆきがふる。
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雪が、降っている。

大地を白く染める、雪が。



「わぁ、殺生丸様!雪だよ!!」
りんが隣で嬉しそうに言った。

長い間生きてきた私だ、雪なんてものは、特にめずらしくもなかった。冬になれば、必ず降るものだし、冬の間に降るのは一度や二度では無いのだから。
晴れや雨、曇りと同じ。天気で喜ぶなど、私には理解できない感情だ。
はしゃぐりんを見つめ、不思議に思った。

「転ぶぞ」
りんに近寄ってそう言えば
「だって、嬉しいんだもん!」
そんな言葉。
「何が、嬉しいと言うのだ」
降りしきる雪。
面倒なだけだ。
「だって、雪が降ったの今年初めてだから」

言われて思い起こせば、りんの言うとおり、この雪は、今年初めての雪だった。
それはつまり、そうか――りんと見る、初めての雪なのだ。

なんとなく、そう言われて、もちろん自分はこの雪で嬉しくなる心情は分からなかったが、りんが喜んでいるのは、分からなく無いと思えてくる。

ふ、とりんを抱える。
「殺生丸様?」
りんのきょとんとした顔がこちらを覗く。
「風邪をひくぞ」
妖怪に風邪の心配は無い。まったく、という事ではではないけれど、そんなに弱く創られている体では無い。だから天候など特に気にした事は無かった。
けれど、人間はそうもいかない。特に、りんは未だ幼い。

「りん」
「なあに、殺生丸様」
「寒くないか」
「うん、大丈夫。殺生丸様、あったかいもん」
へへ、と笑ったりんは、鼻が少し紅かった。


今年、初めて降った雪を見つめて、

きっとこれも、人間【りん】の短い人生の中の、記憶【思い出】になるのだろう、と思った。
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