ネウロ

□いかないで
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俺はひとりなんだ。


そんな事を言ったから、きっと君は傍にいてくれるんだね。
優しくて残酷な君。

いかないで、と言えば。
いつまでも近くにいてくれる。





「――――」
言葉にならない声を出して俺は目の前にいる優しいその子に手を伸ばす。
「匪口さん……?」
小さく袖を掴めば、不思議そうに自分を呼ぶ優しい声。俺の大好きなその声を聞いて、それだけで、あぁなんて安心する。
「――――桂木」
名前を呼ぶだけで、それ以上の言葉は見つからない。だけどそれを分かってなのか桂木は微笑んで。
「まだ、帰らないから」

そうだ、離れたくないんだ。
……独占欲?
この気持ちを何て表すのか。今の俺には分からない。いや、一生分からないものかもしれないけれど。
近くにいて欲しい。誰よりも、近く。


「俺はひとりなんだ」
「え?」
突然に口にした言葉だから、きっと何の事か分からなかったんだろうと思う。可愛い顔にすこし不思議そうな色を浮かべてから、俺の顔を見た。
「もう、誰もいない。ずっと、俺はひとりなんだ」
なんでこの言葉を口にしたのか。
桂木が優しいと知っているから?
そう言えば俺を気にしてくれると思ったから?
桂木に、傍にいて欲しかったから。……なんだろうか?


「傍に、いない」
それだけで、俺が言いたい事、すべて分かってしまったんだろう。桂木は、泣きだしそうな顔になって。

それでも歪めた顔を、悲しい笑顔にかえて、
「大丈夫。私が……います、ずっと傍に、いる……から……っ」
きっと君は俺の痛みを知っているから。大切な人を亡くした、そんな痛みを。分かっているから。
そして、とても、とても優しいから。


「どこにも、いかないで」


その言葉は、君を縛り付ける鎖となって、
俺の傍から離れられなくしているんだ。





優しい、優しい、優しい、優しい。

――残酷。
勘違いをしてしまう。
きっと、本当に欲しいもの【愛】は、手に入らないのに――。



「いかないで」
「どこにも、いきませんよ」

ほんとうに、なんてやさしくて、
ざんこく。
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