ネウロ

□きっと貴方が好きだから
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「桂木ってさぁ、好きなやついんの?」
「へ?」
唐突な質問。
偶然に事務所の傍で会ったから、少し話でもしようよ、と話しかけられて。そういえばさぁ、なんて言ったと思ったら。
久しぶりに会ったのに、すぐにこんな事を聞いてくるというのはどうなんだろう。

「い、いませんよ!」
「ふーん」
な、何その反応。なんて言えば良かったんだろ……。ちょっと困って匪口さんを下からのぞき見ると、口をへの字にして私を見ていた。
「えっ、あ、あの私なにか?」
「別に、なんでもないよ」
そんな事言ったって。いっつもにこにこ(にやにや?)笑ってる匪口さんが、そんな顔をしてたら気になるのは当たり前。……だと思うんだけどなぁ。
今日は匪口さんと会ってから、いつもの笑顔を一度も見ていない。ちょっと、寂しい。
そう思ってまた匪口さんの顔を見たら、まだ私を見ていて、何故か顔が赤くなっていくのが、自分でも分かるくらい――。
「どう、したんですか?……あの、私、何かしたのかな、やっぱり」
「だから、別になんでも無いって。……とりあえずさ、どっか入ろうよ」
目を逸らして、店を探す匪口さんの横顔を見ながら、まだ熱の引かない顔をに手をあてた。
なんで私、赤くなってるの――?


適当に話せる店を見つけると二人でそこに入った。
店に入っても、全然いつもみたいに笑ってくれない。やっぱり私、絶対何かしたよね?え、何、何かあったっけ?
うー、とうなりながら考えていた私は、
「桂木、コーヒーきたよ」
注文したふたつのコーヒーの存在を知らせてくれる匪口さんの声ではっ、と気づいた。
「あ、すいません」

「…………」
「…………」
気まずい。
話するために入ったんじゃなかったっけ?なんでこんなに無言なの?

「……あ、の」
匪口さんの目が、静かにこっちに向いたのを見て、口を開く。
「ちゃんと、言ってください。私何したんですか?……言ってくれないとッ、謝る事もできな、い……」
そう言ってどこに目を向ければいいか分からなくて、にぎったコーヒーに目を落とす。
自分の手が少し震えているのが分かった。

しばらくして、匪口さんの声が聞こえてきた。
「じゃあ、言うけど」
どんな事を言われるのかと不安になってぎゅっと目をつぶったら、聞こえてきた言葉は、
「好きなんだよ」
信じられないものだった。
「………………ぇ」
「俺は、桂木が好きなんだよ。じゃないと、好きなやついんの?とか聞かねーよ」
「え、ぁ、」
びっくりしすぎて、声が出ない。
「でも、桂木は好きじゃないだろ?俺のこと。……落ち込むじゃん」
あぁ、そうだったんだ。
そうだ確かに、私はいないと言った。

だけど、
赤くなる顔は、
跳ねる心臓は、
うれしいと思ったこの気持ちは、


きっと貴方が好きだから?





「あの、今、気づいたんですけど」

私、匪口さんのこと、好きみたいです。
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