ワンピース

□花と剣
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私、貴方にきられてしまいそうね――。


何時だったか、仲間の一人、ロビン【あの女】が言った一言が、頭をよぎる。
「ああ、お前、本当勘はスルドイな・・・」
ははっ、と力ない掠れた笑いがこみあげる。
目の前に、その言葉を言った本人が横たわっている。肩から赤い鮮血が垂れて、その血は俺の手に握られた剣の先に少し伝っていた。
別に、致命傷なほどの傷じゃない。むしろ軽く、普段なら気にしない程度の傷だと思う。しかしロビンは横たわったままで。
「本当になるなんてね。できれば外れてほしい勘だったわ」
ぽつりと、つぶやいた。
「あの時は、何言ってんだと思ってた・・・こんな事」
ゾロは横たわったままのロビンの顔を、じっと、見つめた――。


“私、貴方にきられてしまいそうね”

「あぁ?何言ってんだオマエ」
あまりに突然に放たれた言葉。ゾロの反応は当然だった。
「ふふ、だってそんな殺気のこもった目で私を見てるんだもの」
「見てねーよ。幻覚だ!」
「あら、私幻覚が見えているの?アブナイわね」
ふふ、と笑った顔も、ゾロの頭にこびりついていた。



「ロビ、ン」
カシャ・・・ッ、ン――。
剣が手からすべり落ちる。先についた血が、地面に少しだけ飛び散った。
「ロ、ビ・・・」
手を、ゆっくりとロビンの方へ近づけていく。
「――――、」
静かに、こちらを向いた、ロビンの目。
「ッ!」
近づけた手が、ビクリとすくむ。
しばらく、何もない沈黙の時間が続いた。静寂が響く。
やがてゆっくりとロビンが肩をかばいながら立ち、ゾロに向き直った。
「・・・剣士さん、ゴメンなさい」
ゆっくりと、何かの決意があるような目でずっとゾロを見つめて。
「お、れは・・・っ!・・・ロビン、すまねえ・・・」
搾り出したようなその言葉が合図だったかのように、ロビンは静かに歩き出す。

ギィ・・・、バタン――。

扉は静かに開かれ、ゆっくりと閉じられていった。



『私は花――、貴方は剣』
(花なんか、剣ですぐ斬られてしまう――)


俺は、花【おまえ】を斬るんじゃなく、
花【おまえ】を摘む【傷つける】奴から守る剣になりたかった――。


今はもう、無理な話。
一度つけたもの【傷】は消えはしない。
一度斬【傷つけ】れば、望む関係は修復できない。


“私、貴方にきられてしまいそうね”

あぁ、本当に――。



後戻りはできない。
もう、本当になってしまったから。
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