ワンピース

□三日月の夜と涙
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夜も更けた。
三日月がぼんやりと照らすそこで。

泣いていたのはロビンだった。

「――――……」
何で泣いてるんだ、とは言えなかった。おれには、知らない事が多すぎる。
生きてきた長さが、違う。苦労してきた数が、違う。
おれにはきっと、理解出来るハズも無い。
自分が何も出来ない事を、これほど悔やんだ事はなかった。

「あら、……見られてしまったのね」
静かにロビンは呟いた。
気配で分かったのだろうか。ロビンはこちらを振り返っていないのに。背後におれがいると言う事を、動揺もせずにそう言ったから、言われた俺のほうが少し動揺して固まった。
「分かってたのか?」
「えぇ、だって剣士さんだから」
おれだと他のヤツと何か違うのだろうか。
些細な言葉から勝手な想像をして、なんとなく嬉しく思ってしまう自分は馬鹿か。……馬鹿なんだろうな。おれはこいつに、やられすぎてる。
「寝られねえのか?」
「昔を、少し思い出していてね」
やわらかく笑って、ロビンは言った。
もう、涙は見えない。昼間見るいつもの顔。
夜はこうして泣いていたのだろうか。俺たちが知らないところで。
なんとなく、そんな事を思う。

「今は、とても楽しいわ」
言い訳じゃなければいいと思う。
俺に泣いているのを見つけられたから、『今は楽しいから安心して』という意味で言っているのなら、悲しい。だから、今の言葉が嘘ではないようにと、本当であるようにと、思う。
俺たちがいる事で、ロビンの助けに、少しでもなっているなら、嬉しいけれど。
本当のところを尋ねる事は、できなかった。もちろん、聞いたところで「どうして?私、ウソを言ったように見えたかしら?」と笑って言われるのは、分かっている。
こいつは、何を考えているのか、いまだにおれには分からない。
「今のは、本心。安心して」
ふふ、とおかしそうに笑う声で、潜り込んだ思考から戻った。
「は?」
開いた口に気が付いて、慌てて閉じる。
俺の声は、漏れていたんだろうか?いや、そんなはずは無いし、心を読まれたのか、なんて馬鹿な考えもすぐに捨てた。
「剣士さんは、分かりやすいから」
笑うロビンが、俺の疑問に答えた。

考えを言いあてられたのは、ちょっと悔しい気がした。
「……そうかよ」
「ありがとう、元気出たわ」
どのあたりでだよ、と言いたくなったけど、曖昧に返事だけをする。
「それじゃあ、寝ようかしら」
剣士さんも、おやすみ、そう言って戻ろうとするそのロビンの腕を、考える前に掴んでいた。
一瞬、驚いたような顔をして俺の目をみる。だけどやっぱり、すぐにその表情は戻って。
「剣士さん?」
どうしたのかしら、と言いたげに首を傾けた。
「理由は聞かねえ。し、強要もしねえ」
俺はうつむいたまま、それでも言葉はつなげる。
ロビンは未だ、不思議そうな顔だ。
「だけど、もしまた、寝れない夜は、俺が付き合う。から……、気が済むまで、泣け」
必死に言葉をつなげただけで、何を言ったのか自分でもよく分からなかった。でも、言いたいことは伝わったはず。
……何か恥ずかし過ぎる言葉を言ったような気もしたけど。

やっと顔をあげて、そいつの顔を見たら、一筋。
流れていたのは涙。
「ありがとう」
この言葉は、何故だか本当だと思えた。
だから、ちょっとだけ安心して。ロビンが流す綺麗な涙を、見つめていた。
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