忍たま

□繕うあの人
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――やばい、これはさすがに。

目の前の、無残にも大きく破れた自分の服に目を落として、ため息をついた。
いくら気を抜いていたからって、ひっかけて破くなんてありえない。
もう一度ため息をついて、呆けていたら。
「どうしたの?へーすけくん」
「あ、斉藤」
斉藤が俺のほうにひょこひょことやってくるのが見えた。

破けた服を指差す。
「いや、これ……」
「うわぁ、けっこう破れてるねぇ」
……率直に言うなぁ、こいつ。
じろじろ裂けた服を眺める斉藤に向かって、俺は呟いた。
「どうしようかなぁ、と思って、」
「え、繕わないの?」
「いや、俺そういうの、苦手で」
少しだけきまりが悪くて、目線をよそにやって無意識に頬をかいた。
「そうなの?じゃあ、そうだ。俺、やろうか?」
「……え?」



破れた服が、嘘のようにするすると、元のように戻っていく。
「お前、意外と器用なんだな」
繕う様子をまじまじと見ながら、感心したように言うと、斉藤はちょっと怒ったような、笑ったような。複雑な顔をした。
「俺、そんな不器用に見えた?」
「あ、いや……ごめん」
そういうつもりで言ったわけじゃないんだけど。
だけど実際、どこか抜けているよう気がしたし、こういう事が得意なようには、思えば見えていなかったような気はする。
「もうすぐ終わるから待っててねぇ」
ふにゃふにゃとした笑顔を見ながら、『あー……でも、髪結いをしていたんだっけ、この人は。そうしたら、手先は器用なのかもしれない』とも考えた。

「そういえば、兵助君は苦手なんだよね。意外だな。なんでも器用にこなすのかと思ってた」
と、斉藤は何故だか楽しそうに笑う。それから、お豆腐も手作りするくらいだし、と付け加えるように言った。
確かに、周りには、お前完璧過ぎてつまんないよな、なんて言われた事がある気がする。
自分では完璧だなんて思ってなかったけど。そういえば苦手なものもないなあ、とその時は考えていたのに、
「忘れてたなぁ」
眉をひそめてぽつん、と斉藤に聞こえないくらいに小さく言った。
「うん、でもこうゆうところがあった方が、可愛いよね」
……こいつに可愛いと言われるなんて。予想もしていなかった。
妙に、恥ずかしい。
そんな事を思って目を泳がしている間に、もう斉藤は繕うのを終えたようで「完成!」と嬉しそうに口にした。

はい、と渡されたそれは、もう破れたのがどこかも分からない。凄いな、と素直に感心した。
「苦手でも、良いと思うよ」
ありがとう、と言い終えかけた俺に、斉藤の言葉。
続きは、「へーすけ君が苦手でも、俺がやったげるからさ」と、まるで当たり前みたいに言われた。

また破れたら俺んとこおいで、と頭に手が乗せられる。わしゃわしゃと、子供のように撫でられた。
多分、とても嬉しかったんだけど。恥ずかしい方が勝って、俺は何も言えずに下を向いた。
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