忍たま

□葡萄
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「三郎は、葡萄みたいだね」

雷蔵が唐突に、言った。
「は?」
わけが分からなくて感じの悪い返事をしてしまった。それでも大雑把な雷蔵は、気にしてもいないようなので、何も言わない。
葡萄、とは、目の前にあるこのことだろうか?
目の前の皿に盛られた、果物を見つめる。おいしいと思うし、結構好きだったりする。のだが、どうも自分がこれみたいだ、というのは納得しがたい。
「えーと?雷蔵何言ってんの?」
このままだと、きっと雷蔵は理由も話してくれないと思ったから、素直に聞いてみた。
そうすれば、
「んー、似てるの、三郎は」
…………葡萄と?
もっと分からなくなった……。できればそう結論付けたいきさつを話して欲しい。今のままではさっぱりだ。
眺めていたら、ぷつ、と雷蔵は葡萄の実をひとつぶ、その房からちぎって口に放りこんだ。
「おいしい」
雷蔵のくちもとには笑みが浮かぶ。
自分もひとつ、雷蔵の真似をして放りこむ。葡萄の味が口のなかいっぱいに広がる。自分の顔にも、笑みが浮かんだ。
葡萄の味を飲み込んだまま、そういえば、まだはっきりとさっきの言葉の理由をきいていない、と雷蔵を見る。雷蔵は相変わらず、葡萄に手を伸ばしていた。

「雷蔵、」
「ん?」
手には数粒の葡萄の実を持ったまま。何、と私の方を向いた。
雷蔵には素直に聞かないと返事がこない。だから、そのまま目を見て聞く。
「なんで、似てるって思うの?」
「んー葡萄のかわ、って……黒いじゃない?紫、かな。とりあえず葡萄って言えばこの色の印象強いでしょう?」
うん、と頷きながらいまだ言いたいことがよく分からないなぁ、と頭の片隅で思う。けれど、邪魔しては悪いからもちろん口には出さない。
「でもね……それは、表面なんだよ」
と、葡萄を口に含みながら雷蔵は話す。
まだ続きがあるようなので、一応耳を傾ける。話す間も、雷蔵が葡萄をつまむ手はやんでいない。
「それでね、三郎、って“見えない”じゃない。多分何考えてるか分からないでしょ。不気味だよね」
雷蔵はなんの悪びれた様子も無く、さらりと言った。
そんなにだろうか。というか、まさか雷蔵にはっきり言われるとは思っていなかった。
ちょっとへこみそうになっていた私に、更に続けて雷蔵は言う。
「葡萄はなかみを見たらね、……透明なんだ」
ぷつん、と皮をはいで、なかみを取り出す。透き通った、葡萄の実。
確かに、葡萄は表面の色のイメージが強いけれど、中は透明なのだ。
「三郎の表面……剥いじゃったらさ、ほんとは葡萄みたいに、透明だから」
雷蔵はふふ、と柔らかく笑って、透明な実を、ぽいっと自分の口のなかへ、運んだ。

あぁ自分でも気づいている、今、私の顔はきっとどうしようもなく赤い。
まさか、目の前の葡萄のせいで、そんな事を言われるなんて。ああもう、雷蔵にこんな顔は見せられない。
言い切った雷蔵は、もうすでにそんな事に興味はないのか、やっぱり葡萄を食べるのを楽しんでいた。
これから葡萄を見るたび、雷蔵の言葉を思い出すんだろうと思うと、この上なくぐったりした。今、雷蔵が食べている一粒ひとつぶ、それを見るだけでこんなに顔の熱は治まらないのに。

「雷蔵の馬鹿……」
だから文句くらい良いだろう。
勿論聞こえないように、ひっそりと。
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