忍たま

□蛞蝓と
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ふと机の上に、何か違和感。
隅々まで見渡せば――――

「!?……っき、さんたぁあああ!!」
「うえっ!?なぁに金吾〜」
喜三太はびっくりしながら振り返った。
ぶるぶると指を震わしながら、金吾が指差したのは自分の机の上にいるナメクジたち。
「もうっ喜三太!ナメクジどっかやってよぉっ!」
「ナメちゃんたち、ここにいたんだね〜」
ナメクジを確認した途端、ふにゃ、と喜三太は微笑む。金吾は早く、とせかしながら喜三太にしがみついた。
「今お家にいれてあげるからねぇ」
笑顔をふりまきながら、丁寧にナメクジを手のひらにのせると、目の高さまで持っていって、「おかえり」なんて言う。金吾には、同室者のその神経が分からない。
「も、いいから……!早く家に帰してあげて!!」
もはや金吾の声は悲鳴に近かった。
「金吾もほら、ナメちゃんに挨拶しよ?」
頭をこてん、と傾けて、そんな可愛く言ったって、ダメだ、ナメクジに関しては、どうにも駄目だ。
「うわぁあああ気持ち悪い!!」
本当の悲鳴があがった。金吾は顔をひきつらせ、ずりずりとその場から後ずさる。
そうしたら、喜三太の眉をひそめた顔が目に入って。
「ナメちゃんたちのどこが気持ち悪いっていうのさ?!」
むう、と頬をふくらまして抗議してくるが、どうもこうもない。生理的に気持ち悪いものは気持ち悪いんだ。
もしかしてナメクジの立場にすれば何の理由も無いのに気持ち悪いなんて、理不尽だと思うかもしれない。でも、しょうがない。自分を気持ち悪いと思ってくれていいから、自分はナメクジを気持ち悪いと思う。
金吾には、嘘をついて「可愛いなぁ」なんてそんな器用な事は言えなかった。

「なんでぇ?分からないの?」
こんどは悲しそうな顔で訴えかけてきた。そんな喜三太を見ていると、可愛いよ、なんて言ってあげようかという考えが一瞬金吾の頭をかすめたのだけど、今言ってしまえばこれからが想像できないほど怖い。ナメクジ仲間と認識されかねない。
駄目だ、喜三太にそんな顔されても、これだけは言ってあげられない。
「む、無理っ!!いいから、はやくしまってよっ!!」
絶叫して訴えると、しぶしぶ喜三太はナメクジをおうちに戻してくれました。

「ナメちゃん達、本当に可愛いのにぃ……」
だから、それが分からないよ。と、金吾は深く溜め息をついた。
「金吾がナメクジ好きになってくれたら、楽しいのになぁ」
何か怖いことを言っている。
金吾は、さっきから喜三太の口をついて出る言葉に反応したら終わりだと、がんばって受け流していたのだが、
「だって、ナメクジも金吾も好きだから、一緒だったら何倍も楽しい」
しゅん、としながら喜三太がつぶやいた言葉が。
「へ?」
なんだかすごく、健気な気がしたんだけど……。
と、つい振り返ってしまった。そうしたら、そこには。
「ねえ?絶対?無理?」
うー、と唸って、喜三太がナメクジを差し出していた。
二人でナメちゃん達と遊んだら楽しいよぉ、とさっきの言葉が嘘でないと確信させてはくれたけど、同時にナメクジの恐怖も体感することになりそうでゾッとする。
嬉しい事を言ってくれるから、ほんとは、一緒になって遊んでもあげたい。

けど、ごめんね喜三太。
やっぱりどうしても、蛞蝓って気持ち悪いんだ。
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