忍たま

□不運なひと
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「うわぁあああぁああ」
外から叫び声が聞こえた。聞きなれた、その声は。

「伊作ー?」
声のした方を探す、と目に留まったものから、叫び声のわけをすぐに想像できた。
「……また落ちたのか」
この学園には穴を掘るのが趣味のやつがいやがるからなぁ。
そんな事を考えながら、きっと伊作が落ちたであろう穴を覗き込んだ。
「……ぃったぁ」
「おーい、大丈夫か?」
穴の中に声をかければ、
「あ、留三郎。また落ちちゃった……」
あはは、というのんきな笑い声が聞こえた。
まあ、いつもの事なのは知っているんだけれど。よくいつもへらへらと笑えているものだと思う。
「ほら、上がれ」
手を差し伸べたら、伊作は曖昧に笑う。
「いいよ、汚れちゃう」
なにを今更、と思った。
「そんなのはいつもの事だろうが、ほら」
穴の中に向けて腕を伸ばしたままでいると、伊作は一瞬迷った顔をした。一拍おいて、土で少し汚れたその手が、俺の手に掴まる。
それと同時に、ありがとう、と笑った顔が目に飛び込んだ。

穴から引き上げた、泥だらけの伊作を眺める。
「本当不運だな、お前」
土を払いながら、分かりきった事が口から溢れた。
「……」
「ん?」
返事が無くて、どうしたんだろうと伊作の方を向けば、なにやら考え込んでいるようだった。
いつものように、あはは、と苦笑いするでも無くて。
うーん、としばらく唸ってから、急に俺の方を向いて、笑った。
「うん、でも、助けてくれる友がいるから、僕は幸せな方だと思うよ」
「……そうか」

結局、自分次第で。
人がいくら不運と言おうと、本人が幸せだと思うなら――。

いつの間にか、自分も伊作に笑いかけている事に、気づいた。
ああ俺も巻き込まれた不運はちょっとやそっとなんかじゃないけれど。そんなことが何だと言うのか。
「……そうだな!」

(不運だって、お前と共有すればきっとそれは幸せになるんだ)



「じゃあ、部屋に戻ろうか」
んー、と伊作が伸びをして、一歩足を踏み出した。
その時――
「ぅああああぁっ!?」
「おい、ひきあげたそばからまた落ちんなよ!!!?」


いや、やっぱりこいつは不運か?
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