忍たま

□同じ顔
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同じ顔を、姿をした人間を、愛せるなんて、それはなんて凄い事だろう。


「雷蔵」
呼びかければ自分と同じ顔がこちらを向いた。
いや、正確に言えば私が雷蔵の顔を借りている事になるのだから、“自分”と同じ顔では無い。むしろ雷蔵からしたら“自分と同じ顔”、なのだろうと思った。
「何?三郎」
雷蔵らしい穏やかな笑みで、私を見つめる。
同じ顔にしてみたって、こんな笑顔を、自分は出来ないと思った。どんなに似せたって、私は『偽者』。
「何でもない、呼んでみただけ」
「何それ」
雷蔵は笑顔のまま、少し眉根を寄せる。

少しの間をおいて。
「雷蔵は、私の顔を知りたいと思う?」
雷蔵の顔を見ずに、ぽろりとこぼす様に聞いてみた。

私は『私の顔』を知っている。
けれど、雷蔵は『鉢屋三郎の顔』を知らない。
雷蔵が私の顔と同じだとしても。それは私からしたら、雷蔵が私【鉢屋三郎】の顔なのでは無いのだ。
ただ自分と同じだけの顔が、隣にあるというのは、どんな感覚なのか。私には知る由もない。

だから。
いつの間にか、口からそんな言葉がこぼれ出ていた。
言った後、フイ、と横の雷蔵を見る。
「うーん、まぁ、ね。普通に知りたいとは思うよね」
ちょっと迷っているような様子を見せながら、やはり雷蔵らしく、優しく私に微笑んだ。
「でもまぁ、それは出来たらでいいんだ。君が見せたくないと思うなら、僕は無理してまで見せてもらわなくて良い」
それは本当だろうか。
もし自分なら、自分が雷蔵の立場なら。知りたいと思ってしまうと思うし、きっと見るためになにかしら行動を起こす気がする。
なら、何故自分は見せないのかと言われれば、ツライ所だけど。
「同じ顔をされているなんて、気味が悪いと、思ったりしないのか?」
私がこんな事を言うのは変だと自分で理解しながら、雷蔵の返事を待った。
そうしたら、いつも迷っている雷蔵にしては珍しいほどきっぱりと。
「だっていくら姿形が僕なのだとしても、中身は三郎なわけだろう?」
迷い無く、答えた。
「雷蔵……」
「とっくに、三郎って存在は、僕とは違うって分かっているから。顔が同じ位で気味が悪いなんて、思わないよ」

雷蔵は、それからまた、私が真似できない笑顔を見せた。



あぁ、そうだね。だから私は君が好きなんだ。
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