忍たま

□君の横
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「留三郎、僕手当てしてくるよ」
今回の実習で傷ついた左足を少しだけ引きずりながら、伊作はそれでもいつものようにへにゃっとした笑顔で言って、保健室の方へ俺の返事も聞かずに駆けて行った。
幸い危険な実習だった割には俺はかすり傷だけですんだし(伊作は手当てしろ、とうるさかったけれど、俺はそんなもの必要ないと一緒に保健室に行こうという誘いを断った)それに、不幸委員長とまで言われる伊作も一応左足だけの怪我で他はなんともなかった。
きっとアイツにしては運が良い方。


今回は結構きつかったな、と思い返していた俺の耳に、部屋の扉がスッ、と開く音が聞こえた。
伊作にしては早いなと思いながらも、他にこの部屋の扉を開ける奴も居ないだろうと、
「伊作?早かった、……」
声をかけながら振り向いた。
しかし、そこに立っていたのは想像していた人物では無く。
「留三郎、伊作はどうした」
「仙蔵……」
目に入った人物の名前を呟くと、そいつは顔をしかめて、すぐに答えが返ってこないことに不機嫌になった様子だった。
しょうがなく何故ここに居るんだ、という質問は飲み込んで、仙蔵の問いかけに答える。
「伊作は、手当てをしに行った」
「お前、……守れなかったのか?」
仙蔵の顔が急に、怒りを帯びた。
今まで、何度かこの表情を見た事がある。それは何時も、伊作が傷ついた時だった。

「……あいつだって忍だろ、自分の身を自分で守れなくてどうする」
それは、当たり前のこと。
だけれど。
「それでも、」
仙蔵の、低い呟き。悔しさを飲み込んだような声色。
その続きの言葉は、分かっている。そう、本当は俺だって。
思ってる事なんだ。
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