ヤンキー君とメガネちゃん

□ゲームは終わりそうにありません
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手にはコントローラー。
目の前にはテレビ画面。

横には、マコトさん。


「弱っ」
僕の左耳から、マコトさんの声が入ってきた。
「弱すぎ。話になんないじゃん」
「ま、マコトさんが強すぎるんじゃない……?」
今、画面には僕が使っていたキャラクターが無残にも地面に崩れ落ちている場面が映っていた。

「初心者じゃないんでしょー?……それに、あん時は強かったじゃん」
“あの時”とは、きっとマコトさんが引きこもっていたとき、ゲーム内で対戦したのを言っているんだろう。確かにあの時は、マコトさんと良い勝負をしたと思う。だけど、
「あれは、僕やった事あったし……。それに、」
そこまで言って、言葉を飲み込む。
あぁしまった、うっかり言いそうになった。
「何?」
ずぃっ、とマコトさんの顔が僕の顔とあと数センチ、というところまで近づいた。思わず、血が一瞬にしてのぼっていくのを感じた。顔、赤くなってないかな、……それは無理か。ここまで血がのぼっていくのを感じたあとだから、きっと僕の顔は今までないほどに真っ赤だろうと推測できる。

「や、何でもないから……っ」
体をひいて、両手をその前につきだす。
「手加減したとか言うんじゃないでしょうね〜?」
眉間にしわがよって、目が怖いことになっている。
「ちっ違うよ!そんな事しないって……そうじゃなくって」
顔が近づき過ぎないよう、今さっき体勢を後ろに持っていったのに、マコトさんはそんな事は考えていないようで、再び僕との距離を縮めた。顔が近い。
「じゃなくって?何、言いなよ」
今だぐいぐいと近づいてくるマコトさんの顔に、これ以上はもう赤くなりようがないと思うほど真っ赤だろうと思われた顔が、更に赤くなっている気がする。……気のせいにしたい。

ついに、我慢できずに。
「まっマコトさん近いってばっ!!」
目をつぶって叫んだ。
それから数秒の沈黙、そろり、と目を開ければ――
「あ、ご、ごめん……」
少しだけ、頬を染めたマコトさんの姿が目に入った。
それを、可愛い、と思わない方が無理だと思う。

どうしようもなくなって、目を泳がせる。
何か話さないと、なんて思いにかられて、うっかり言いかけてせっかく飲み込んだ言葉を、吐いてしまった。
「だ、ってマコトさん可愛いから……、ゲームになんか、集中できないよ……!」
その言葉を口にして、……あれ、僕なんてことを言って……?、と我に返って青ざめる。これじゃあ、告白してるようなもんじゃないか。
顔が上げられない。マコトさんの方を、見れなかった。
どくどくと脈打つ心臓の音が、やけに大きい。

「馬鹿じゃないの」
マコトさんの声が、した。
馬鹿じゃないの、ってやっぱり――
ぎゅう、と拳をにぎって、前をみたら
「え?」
照れたように、笑っていたマコトさんの顔。
「あれ……?」
これは、この反応は、少なくとも嫌がっていなくて、それよりむしろ――、

「何呆けてんの!」
ばしん、と背中をたたかれる。
「痛ッ」
「ほら、もっかいやるんだから!」
マコトさんの手にはもう、コントローラー。
「えっ、ぁ」
「勝つまで止めさせないからね」
とびきりの笑顔で、言い放った。
「えぇーっ無理だよ!!」

まだまだ、このゲームは終わりそうにありません。
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