ヤンキー君とメガネちゃん

□遊ばねえ?
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あいつは、とんでもなく、優しい。

「香川」
学校終わり、帰る前にあいつに声をかけた。そうすれば、ちょっと怒ったような顔が、こっちを向く。
「何だ」
「……あのよぉ、暇、だからよ……あー、」
もうすでに何がなんだか分からなくなっている俺は、パニックになりながらも、頑張って香川に向かって話しかけている。
「なんだ?」
「今週の、日曜、とか……っ」
「?」
香川の察しは、物凄く悪いと思う。こいつには、はっきり言わないときっと何年かかったって伝わらないんだ。

「あー……お前、暇?」
「暇だが、何だ?」
やっぱ伝わんなかった……!!
ちくしょう、言うしかねえのか。
顔が真っ赤になっていくのを感じる。恥ずかしいったらありゃしねえ。こんなこと、初めてなんだからな。

「つまりさぁ」
「早く言え」
うるせえぇぇ!!こっちは勇気振り絞って言葉紡いでんだろうが!察せっ、そうじゃなくても待てよ!それくらい!
叫びだしたい気持ちを抑え、なんとか言葉をつなげる。
「だから、な……暇だから、っ遊ばねえ……!?」
どくん、どくん、どくん、うるさい、俺の心臓。やばい、って絶対爆発する。死ぬ。早く答えろよ香川!!

「北見、」
「おぅっ??!」
なんか、声裏返った。緊張やべえ、って、何?断んなら断るでも早く!何だよ、お前全体的に遅えよっ。
「その、俺は……遊ぶ、というのが初めてなんだが」
「へ?」
「今まで興味が無かったからな……どうやって遊んで良いか分からん。それでも良いのか?」
少しだけ困った顔の香川を見ながら、
なんだ、お前もなのかよ……。
と、なんだか微笑ましく思った。
「うるせえ、俺も初めてだ!だから、気にすんな」
「そうか」
俺がそう言ったからなのか、ふっと今日始めて微笑んだ香川に、知らずにどきん、と胸がなる。
こいつ、こういう顔も出来んじゃねえか。

「じゃあ、日曜日、なっ」
「分かった」
それじゃあ、と俺が帰ろうとしたら――
「おい北見?」
「は?何……」
「一緒に帰るんじゃないのか?」
なんて、当たり前のように。
「……っっじゃあ!……早く準備しろよ」
「もう終わった。帰るぞ」
がたん、と音がしてイスから立つ。今度は、香川が先に歩いていった。
「ちょ、っと待て馬鹿!」
慌てて追ったその背中が、急に止まって振り向いた。
「北見、日曜日、楽しみにしている」
再び笑った香川の目が、ひどく、優しく思えた。
「っ!?……俺もだよ!」
何故だか、半ば怒り気味になってしまったけれど。溢れる笑顔は抑えられなかった。

香川は、優しい。
察しは悪いのだけど、そのぶん、はっきり言えばちゃんと返事が返ってくるから。それは、予想以上に嬉しいものだから。
俺はこいつと、出会えて良かった、なんて大げさな事を考えてしまうんだ。
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