デスノート

□優しい笑顔
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「粧裕ちゃん?」
今にも消えそうな、どこか儚げな女性。まだ少女の面影の残ったその人が、自分の名前を呼ばれ、振り向く。
「松田さん……」
訪ねて来た男、松田桃太の方を向いて、夜神粧裕は笑った。けれど、その笑顔はどこか痛々しげで。
「お邪魔してるよ。……調子、どう?」

『あの事件』の後、夜神粧裕は茫然自失状態になってしまった。今は回復してきているが、それでもやはり、まだ前のような笑顔は見られない。
「もう大丈夫ですよ」
(ほら、またそうやって。人に心配かけないように、って)
いつも痛々しげに、笑う。
「粧裕ちゃん、僕は……」
「……松田さん?」
少し思いつめた様な桃太の様子に、どうしたのかと粧裕は近くに寄った。
「あの、何かあったんですか?」
心配そうに顔色を窺う粧裕を見て、桃太はそっと、近くあったその手を取った。
「え……?」
どうして良いか分からないのか、粧裕は少しだけ顔を赤くして、おろおろしている。
「あっあの、松田さ……」
言い終わる前に、言葉は切れた。
松田がふいに、粧裕を抱きしめたからだ。
「粧裕ちゃん、君は僕なんかより、ずっと強い。他の人に迷惑かけないようにって、心配かけないようにって、笑うから」
(君は優しすぎるんだ。人にたくさん気を使うのに、こっちには使わせようとしない)
桃太はゆっくり体を離すと、粧裕の顔を見る。
「でもね、僕にぐらい、本当の事言ってよ。心配くらいさせてよ」
その瞬間、ぽろっと粧裕の目から、涙が落ちた。
「……っはい」
粧裕が笑顔を見せた。
あの痛々しい笑顔ではない。やわらかい、優しい笑顔だった。

「……とか言っといて僕の方が心配されてそうだね……」
困った顔で、松田が笑う。
「そうですね」
「そうですね、って!そこは否定してよ!」
「あははっ」
君に、元の笑顔が戻るのは、まだ遠いかも知れないけど。僕は、少しでも君が元の笑顔に近づくことができたらって、思うんだ。
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