犬夜叉

□欠けた花
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――りんに、この私が変えられたと言うのか?――……こんな小娘に――。

「――行くぞ」
「はっ、はい」
りんがとてとてと寄って来る。
「おいっ、……りん!」
邪見が何か言いにくそうに口をごにょごにょ動かしている。
殺生丸は邪見を睨み、
「何だ、言え」
といつもの様に脅した。
「いや〜その〜」
まだ邪見は言いにくいのか、口をもごもごしたままだ。そんな邪見に代わってりんが焦った様に口を開いた。
「なっ、何でもないよ殺生丸様!行こ!」
そう言ってぐいぐいと殺生丸を後ろから押していたりんの手が、ふと止まる。
「……痛っ、」
「りん、貴様」
りんの足から血が出ている。着物で隠れるような場所ではあるが、まだあまり血は止まっていない。どうりで血の匂いがしたはずだ。このあたりの匂いのきつい植物のせいで他の匂いが上手く嗅ぎ取れなかったのだが、こんな近くにいて気づかないとは。殺生丸はちっ、と小さく舌打ちをして、
「何故言わなかった」
とりんの方に向いた。
「だって、」
目を泳がして、そしてふせる。
その後ぽつりと、りんはつぶやいた。
「迷惑かけちゃうと思って」
答えは、本当にりんらしいものだ。

「……邪見」
「っ申し訳ありません殺生丸様!」
邪見は殺生丸の足元で勢いよく土下座をしながら早口でしゃべり始める。
「わしが目をはなしたばっかりに、その隙にりんが小妖怪に襲われまして……!気づいて追い払ったのですが怪我を……申し訳ございませんっ、このわしがもっとしっかりしていればっ。そしてこの事は殺生丸様に迷惑がかかるので申すな、とりんが……!本当に申し訳ありませぬぅぅう。こうなればわしの命を……」
べらべらと話す邪見、をスッと無視して殺生丸はりんの目を見つめる。
「歩けるか」
「えっと、はい」
「嘘をつくな」
殺生丸は無表情で嘘を指摘した。
殺生丸相手ではどうしようもないと観念したりんは、殺生丸の言葉に素直に答えることになる。
「……はい」
「動くな」
一言、それだけの言葉と共に殺生丸はりんを抱える。
「せっ、殺生丸様!?」
りんがおどろく。
邪見はぼーっとそれを見ていた。どうやら放心状態のようだ。数秒後、はっ!と我に返ると、
「せっ殺生丸様っっそんな事はこのわしが!何も殺生丸様みずから……!」
と叫んだが、またもやそんな邪見を無視し、殺生丸は歩き出す。



――やはり、私は変わってしまったな。人間の、しかもこんな小娘に気をかけるようになるとはな。

殺生丸は腕に抱えたりんを見ながら、りんから預かった、一つ花びらの欠けた花を握りしめた。
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