犬夜叉

□変わらず、そばに
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気がつけば日も沈み始めて。
どうしようもなく不安で、ただそこに居るしか出来ず、りんはうずくまったまま。

「グ……ァぁ……」
――声。
いや、叫んでいるような、つぶれた音がした。突然聞こえたその音に、りんは嫌な予感がする。とっさに振り返ったそこには、――妖怪の姿。
人間の大きさはゆうに越えている。その大きな腕や足で潰されたらひとたまりもない。また、鋭い牙や爪はいともたやすく人間を引き裂くだろう。
今までならりんにとって、どんな大妖怪も怖いものではなかった。殺生丸が負ける相手ではないからだ。
しかし、今。
殺生丸はここに居ない。
逃げよう。そう思っても足が動かない、進まない。恐怖でその場から一歩たりとも動けなくなってしまった。

――殺生丸さま……!――

襲い掛かってくる妖怪の恐怖から、目を瞑った。
その時。
「りん!」
聞きなれた声と、グシャリと何かが崩れ落ちる音。
そっとりんが目を開いた先には、倒れた妖怪と、――殺生丸の姿。その姿を見た瞬間、今まで我慢していた涙が、りんから溢れた。
「せっしょぅ、まる、……さまぁ……っ」
ぼろぼろと泣くりんを見下ろしていた殺生丸は、なかなか泣き止まない様子のりんをしばらく見つめた後に、その小さな体を抱き上げた。
「あまり心配をかけるな」
口調は変わらないが、あの殺生丸がここまでしたのだ、きっとこれまでに無い程焦ったのだろう。
「遠くへ行くなといっただろう」
その口調とは裏腹に、抱きしめる腕はとても優しい。
「ごめん、なさぃっ……!」
りんの謝る泣き声を聞きながら。
これからは僅かな距離でも見張ろうか、などと殺生丸が考えていたことを、りんは知らない。



変わらず、そばにいる。
無くしかけて気づく、その大切さを。
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