犬夜叉

□触れるだけの口付けを
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愛など、知らなかった。

愛しいなど、そんな感情は持った事が無い。
長く生きてきて、そんな感情は一度も。

それなのに、こんな短い時の中で、そんな感情が、私に生まれるなど。ありえない、事だ。
だから、間違いだ。勘違い、だ。同情と、愛情。
そうだと、自分に思い込ませる。
そうしなければ、納得がいかないのだ。どう考えても、そういう風に思わなければ。

りんを、愛しい。
そんな思いは、間違いだ。

そんな感情、私は持たないはずだ。


ましてや、私は妖怪で、りんは人間。
――父と、犬夜叉の母は、そうであったけれど。
それを、嫌悪してきた自分だ。何を、今更と。

否定し続けてきた自分が、そんな感情を抱いてはいけない。間違いにしなくてはいけない。

この想いは、【駄目】だ。


隣で、眠る小さな少女。
ゆっくりと近づく。

触れて、
抱きしめて、
――誰にも奪われないよう。
そうしたい衝動が起こった、けれど、やっぱりそれは、間違いな事だ。

だから、しない。


それでも、今この時に。

名前を呼ぶのは、許されるだろうか。
「りん、」
それから。
もうひとつ、だけ。


横たわる少女の、

その唇に
触れるだけの口付けを落とした。


「愛してると、言わない」

その、代わりに。
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