犬夜叉

□初恋
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「なあ、恋ってどういうもんだ?」
「どうした、犬夜叉」
いきなり、と隣に座っている桔梗が不思議そうにおれを見る。
「あーなんか、ガキが言ってんの聞いたんだ」
「そうか」
「でも、多分おれは、恋ってわかんねえ。桔梗なら、知ってるかも、って」
そう思って。

「私も分からないな」
「そう、なのか?」
桔梗に、分からない事があるなんて。
何でも知ってた桔梗。その口から、分からない、という言葉が出たから、少し吃驚した。
桔梗でも分かんねえなら、おれに分かるはずないか。
「すまない、私では力になれないな」
ちょっとだけ悲しそうに見える笑顔。
「別に。桔梗が知らねえならしょうがねえよ」

「私は、恋は分からない。――いや、私だから分からない、の方が正しい」
桔梗の右手が、四魂の玉に触れる。
「え?」
桔梗の顔が、寂しそうだ、とは思ったけど、その言葉を理解する事は出来なくて顔をしかめる。
「巫女、だからな。恋など、したことが無いのだ」
フッ――と目を伏せた桔梗の横顔は、綺麗だったけれど、何故だか少し悲しくなった。
「普通の娘ならば、とっくに恋のひとつやふたつ、しているのだろうな」
するりと、桔梗の右手は四魂の玉から外された。

「恋は楽しいと聞く。けれど、恋は胸が締め付けられるほど苦しいと聞く。私には、それしか言えない」
楽しい、と苦しい?
「何だそれ、反対じゃねえか」
「そうだな、私にも分からん」
桔梗はおれの目を見て、ふふ、とまた。少し寂しそうに笑った。

「あぁ、そうだ。もうひとつ、相手の事ばかり考えてしまう、と聞いたよ」


桔梗が去った後も、おれは考えていた。
恋とは何だろう。

桔梗の去った方を見つめて、また考える。
おれの気持ちは、何て表すのだろう。

この気持ちが分からない。

あいつと、話したいと思った。
あいつに、会いたいと思った。
あいつの、声が聞きたいと思った。
あいつの、笑顔が見たいと思った。

桔梗といたら、楽しかった。

「桔梗、桔梗」
その名前を声にするだけで、体の中の、真ん中へんが熱くなる。
どくどくと、心臓がなった。そわそわ、落ち着かない。
こんなの、初めてだ。何すれば良いか、わかんねえ。
――苦しい。


「あれ、」
それは。
桔梗が、言っていた。

「もしかして、」

これは恋、と言うのだろうか?

分からないけど、
確かに、桔梗を愛しいと思う。


これが恋と言うなら。

確かに、桔梗の言っていた通り、なのだ。
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