ネウロ

□大好きだから
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次の日、俺は精一杯普通なフリをして一日を過ごした。ホントは桂木と笹塚さんの事が頭にこびりついて離れなかったけど、なんとか仕事はできた。……気がする、うん多分。
幸い笹塚さんにもすれ違うくらいだったし。あぁ、ちょっと黒いモンがわいてきたけど。何とか我慢した、俺偉い。
「仕事終わりーーっ」
なんとか、今日を乗り切った。
「じゃぁ帰りまー……!、笹塚、さん」
仕事終わり、一番今会いたくない人が目に入った。
「あ、え、んじゃ俺、帰るね。……笹塚さんは今日はデートじゃないの?ははっ」
「匪口」
「あ、それじゃ!」
「おい、だから昨日のな、」
「俺!……急いでるんで」
にへら、と笑って。
ごまかそうとしてるの、ばれた、かな?まぁいい、それより早く。ここから去りたい。
くる、と笹塚さんに背を向けて、顔を見ないように走ってその場から逃げ出した。


「あんなん、気にしてるってばれるよな」
帰る道、ぼそっ、とつぶやいて、また落ち込む。神様、俺アンタを恨むぜ?何この仕打ち。

「!!」
ああ、マジ恨んでやる。一番会いたいような、でも今は一番会いたくない人、そう桂木の姿。
なんでこんなとこいるんだよ、桂木。今俺、お前とどんな顔して会えばいいか分かんねーよ。
「匪口さんっ!」
俺に気づいた桂木は、満面の笑みで俺を見てくる。止めてくれよ、あきらめるなんて、出来なくなりそうだ。
「よ、桂木」
「あれ、匪口さん元気ない……?大丈夫?」
「ん、大丈夫。別になんもないよー」
偽りの笑顔を向ければまだ心配そうな桂木の顔。
「っ、」
ああ、真っ黒だ。俺の中は、今真っ黒に染まってる。なあ桂木、あの笑顔も、そんな心配そうな顔も、いつも俺以外に、――笹塚さんに、向けてんの?
汚い感情。こんな事、思いたくないのに。
「ほんとに、大丈夫?」
「……ッ」
「匪口さん、あの、」
「大丈夫だって言ってんだろっ!」
「あ、……ごめんなさい」
そんな顔、すんなよ。違うんだって、桂木。お前のせいじゃないんだ、全部全部、ぜんぶ、俺のせい。こんな醜い感情のせい。そんな顔をさせたいわけじゃない、笑って欲しい。でも、
「違うごめん、桂木」
「え、いやっ私がしつこかったのが悪いんです!匪口さんは、」
「違うんだ」
桂木の言葉をさえぎる。
「え?」
「全部、俺のせいなんだよ」

匪口は、本当に、泣きそうな顔で。でも、前を見つめて、笑って、
「ごめんな、桂木のせいじゃないよ、俺が悪いんだ。俺、桂木の事、好きなんだよ」
困るよな、でも言っておかなくちゃいけない。全部、話すから。
「だから、さ。昨日笹塚さんと歩いてるのみて、すげー嫌だって思った。ふたりで笑ってるの見て、汚い感情が俺の中に出てきた。桂木の幸せそうな顔、見れなかった。そんなんで、笹塚さんにも、桂木にも……強くあたるなんて、そんなのすごいかっこ悪い。ごめん、本当桂木は悪くない」
あぁもう完璧に嫌われたかな。今度こそ泣いていいかな、本当に。
匪口はぎゅ、とこぶしを握って、ゆっくりと目の前で自分を見つめる目を、見返した。
「匪口さん」
何て言われんのかな。
ほんと、こんなのねーよ。
「……私の事、好きって本当?」
「え、?あ、あぁうんっ」
何言われるのかと思ったら、そこ?
「…………嬉しい」
「うん、ごめん…………えッッ!?ちょ、えっ嬉しい!?」
びっくりしすぎたからか、俺はなんとも情けない声を出した。我ながら間抜けだと思う。
桂木を見れば、
「ハイ、私も匪口さんのこと、大好きです」
いつもより綺麗な、本当に綺麗な満開の笑顔。
やっぱ俺、桂木に惚れてんな。


「え?でも、昨日……あれ笹塚さんは?つきあってんじゃねーの?デートじゃねーの?」
質問が多すぎる。自分でそう思ったけど、今はしょうがない、だってあの状況で俺すごい落ち込んだんだから。
「何で!!つ、つきあってないよっ!デートじゃないって言ったじゃないですかぁ。あれは買い物に!付き合ってもらっただけ!で、匪口さんに、……どんなものあげたら喜ばれるかわかんなかったから……」
「えっ!?」
――俺、に?
「……結局笹塚さんも『あいつは弥子ちゃんに貰ったもんならなんでも喜ぶよ』とか言うしっ」
笹塚さん、俺の事よく分かってんじゃん。
「じゃあさ、俺桂木の彼氏になってもいーんだ?」
にやっ、と笑って言えば
「……うん」
照れて真っ赤な桂木。本当可愛い。




ごめんね。

醜く嫉妬しちゃうくらい、お前の事大好きなんだ。
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