ネウロ

□良い年になりそうです
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「あけましておめでとうございます」
桂木が、両手に食材抱えて、そう言った。

俺ん家の、玄関前。

「え、あ、あけましておめでとう」
動揺しつつ、俺も返事をする。
返事しながら、桂木を見て、状況を理解する為に正月でダラけきっていた頭を回転させた。
「それ、」
何、と桂木が両手で抱えた、(ほとんど桂木の顔が見えない位大量の)食材を指差そうとしたら、
「お邪魔しますね?」
って俺の発言無視しながら、開いたドアの内側に入ってきた。
「え。……は?」
俺の家の玄関に入って、俺が何が何だか分からない、って顔してるのも気にせずに、桂木はもう靴を脱いでいた。

急に何。どうしたの、桂木。
男の部屋にそんな入ってきちゃって、どうなっても知らないよ。ってそんな馬鹿な事考えてる場合じゃなかった。
とりあえず状況説明して欲しい。
俺の家、桂木来た事無いじゃん。というかまず、教えてないし。知ってるはず無いのに。
そもそも来るとか、連絡も無かったよ?
何なの、ドッキリなの?

頭の中で、口に出せなかった言葉が渦巻く。

「あ、匪口さん、台所何処?」
「……入って右」
俺の考えてる事なんかお構い無しに、桂木がぱたぱたと台所に駆けて行った。
しばらく放心していたけれど、すぐに我に返ってそのあとを追ったら、もうすでに俺の家の台所で、料理中。
あ、エプロンしてる……。
結婚したらこんな感じなのかな?桂木が家にいたら、まっすぐ帰るよ、絶対。
ってまた!俺は何を馬鹿な妄想してんだ。

「か、桂木?」
「なんですか?」
にっこり、無邪気にハテナマークを飛ばす可愛い子。
「えーと、まず、何でいるの?」
俺が尋ねれば、トントン、と心地いい音に混ざって桂木の声。
「匪口さん、料理しないかなぁって思ったから……お正月くらい美味しいもの食べさせてあげようかなぁ、って」
うん、実際コンビニにばっかりお世話になってます、が。
「それで、笛吹さんに聞いて、家教えてもらっちゃいました」
そうやって話している間に、
「……お雑煮」
が、うつわに盛り付けられる。
「はい、出来上がり!」
ふつーに美味そう。
手際よく、テーブルに並べられる桂木のつくったお雑煮。
……桂木、自分の分尋常な量じゃないよ、それ。とは、声には出さず、心の中だけでツッコんだ。

「いただきます!」
なんかもう、何でこんな正月から、とか。いきなり過ぎるとか、桂木の分のお雑煮が尋常じゃない量だとか、どうでも良い気がしてきた。
美味い。
し、桂木もいるし。
幸せじゃん?


「匪口さん」
「ん?」
「今年もよろしくお願いします」
「……よろしく」

今年も良い年になりそうです。
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