ネウロ

□赤点じゃなくて良かったじゃん
1ページ/3ページ

「匪口さぁああんっ」

“勉強教えて……!”

「へ?」
必死な形相の弥子の顔が、事務所のドアを開けた瞬間に飛び込んでくる。
その手には、教科書と、ペン。涙目で縋りついて来る桂木に、ああ呼ばれたのはこの為か、と匪口は納得した。

『匪口さん暇!?出来れば事務所に来て欲しくって……というかもう暇じゃなくても来てください!匪口さんにしか頼めない事があるんでっ』
桂木の名前が携帯に表示されたから、ちょっと浮かれながら出たら、そんな事を早口でまくしたてられた。
それから、すぐにプツリ、と電話はきれる。どうしたんだろうと来てみたら、
「こーゆう事ね」
苦笑しながら、匪口は桂木の頭をぽんぽん、と撫でた。

「どこ?」
「……っありがとうございます!」
ぱあっと桂木の顔が明るくなる。
そんな桂木の表情を見て、匪口は、『俺って絶対桂木に弱いな、惚れた弱みだよなあ』、と思った。

すぐに教科書を広げ、ここの問題なんだけど、と桂木は分からない問題を指差す。
「ふーん、数学か」
問題に目を通しながら、ちらりと横目で桂木を見る。真剣な目をして分からない問題を睨んでいる桂木に、ついつい頬が緩みそうになるのを、匪口は必死で抑えた。
(桂木、真剣な顔しちゃってかわいー)
とりあえず心の中だけでそんな事を呟きつつ。
「これってこの公式変形して使えばいいんじゃないの?そっからココに代入してさ」
とんとん、と教科書に書いてある公式を人差し指で軽く叩いて、指し示す。
「そしたら、出来るんじゃない?」
「おお……!さすが匪口さん!!」
桂木がきらきら目を輝かせて言う。そんな様子に匪口はクスクスと笑った。
「なっ、なに!?」
「ん〜?こんな事で感動してくれるんだなぁ、と思ってさ」
「だ、だって私は分からないんでっ、」
むすっとした桂木が、匪口さんみたいに頭良く無いもん、とぶつぶつ呟いている。

「まあ、あんまり頭良くなられても困るけどな」
「え!なんでっ」
「だって、俺に頼ってくれなくなっちゃうじゃん?」
目を細めて笑いながら、「ね?」と確認するように匪口が囁けば、すぐに桂木の顔が真っ赤に染まった。
「うわっ真っ赤!」
「ひひ匪口さんのせいなんだけど!?」
「焦りすぎ」
真っ赤になった顔を桂木が俯かせているので、匪口は頭をぐしゃぐしゃと撫でて、それから「なーに下向いてんの?」と抱きしめた。
「べっ勉強が進みません……!」
「はいはい」
返事をしながらも、匪口はまったく桂木を離す様子は無い。
真っ赤になって、匪口の腕をはがそうとしている姿に、ため息。
「しょうがないなあ。終わったら、キスしてくれる?」
「なっなんでですかっ!」
「いいじゃん。そんくらい」
真っ赤に染め上げた顔が、困った表情になる。
(ひどいよなあ。俺に我慢させ過ぎ)
その顔を見つめながら、匪口はさっきよりも深いため息をついた。
「はいはい。で、あと、どれが分かんないの?」
「え?」
「ちゃんと最後まで見てあげるよ」
(本当、俺って桂木に甘い)
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ