お題一

□嘘吐きな15題
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08:清々した



目の前にいる、とても愛しい人。
でも、愛しいと言えない。

手に入れて、そして失うのが怖いんだ。


ああ、俺はなんて――
臆病者。



「匪口さん。私のこと、好きですか・・・?」



「好きじゃ、ない・・・」
そう呟いた時の、悲しそうな顔。
「もう、・・・いい、」
それから、かすれて聞こえた声の小ささ。

背中を向けて、俺から遠ざかってく、君の。


「ッ」
なんでだ。俺が、言ったのに、
言ったくせに、なんで自分が。
「傷ついてる、みたいな、そんなこと」
だから、この胸の痛みはきっと嘘。突き放した俺が、感じちゃいけない痛み。



「いいのか?匪口」
「笹塚さん・・・」
笹塚さんの無感情な目が、俺を捉える。
なんだかその目に責められている気がして、俺は目を逸らした。
「別、に」
怒られた子供みたいに俯いて、そんな短い言葉だけ呟いたら。
「そうか」


「そう、だよ。居なくなって、清々した・・・」

「本当か?」


「――――っ」

なんで笹塚さん、気づくんだ。


なあ、匪口。と、呆れたみたいなため息と共に
「天邪鬼も大概にしとかないと、後で後悔するぞ――」
その言葉が俺の頭の中を回る。

そんなの。
俺だって分かってるよ。
でも、

「・・・どうやって、この気持ちと向きあったらいいか分かんないんだ――、っ」


「・・・お前は、愛情に慣れてねえんだよ」
静かに、笹塚さんが言った。
「・・・、」
「でも、慣れてねえから、って許されない。慣れなきゃいけない。・・・なんでもそうだろ?」
さっきより、ずっと優しい声で問いかける。

「・・・桂、木」
俺がつぶやいた一言に、笹塚さんがゆっくり笑って、
「ホラ、追いかけろ。・・・行ってこい、匪口!」
背中をポン、と押してくれた。

「――・・・!」
俺は、もう、走ってた。


早く、早く、早く、早く!!
桂木のトコ、いかなきゃいけない。

全速力。俺は走った。




そうだ、怖くったって、俺が動かなきゃ何もうまれない。
怖いなら、その恐怖に打ち勝つ想いを。

「っ、桂木・・・!」
だから、言わなきゃいけない。



なあ、お前の事、大好きだ、って。





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