お題一

□嘘吐きな15題
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06:泣いてないってば




少女が、泣いていた。




そいつはいつも、思いっきり明るくて、誰にだって笑顔を振りまいて、俺なんかとは人種が違って、そういう奴だと、思ってた。
「おい、泣いてんのか?」

でも、違ったみたいだ。
「っ!泣いてないよ・・・ッ」
そうだ、こいつだって同じ、俺と同じ人間だ。どっかの魔人様とは違うんだ、か弱いヒト。


「探偵、別に泣きたきゃ泣きゃいーじゃねーか」
「泣いてないっっ!・・・吾代さんには、関係ないじゃん」
そういって俺に震える背中を向けたまま。
その小さな背中は、いつもより更に小さく見えて、今にも壊れてしまいそう。


やっぱり、どう見たって、

「泣いてんじゃねーか」
「泣いてないってば」

なんて見え透いた、強がりな、嘘。

「私はッ泣いちゃ駄目なんだよ・・・!だって皆、頑張ってる。みんな、つらいんだよ。私だけじゃない・・・っ」
本当に今にも。音をたてて、崩れて、壊れて、

なくなってしまいそう――。

気づけば少女は俺の腕の中。
「吾代・・・さん?」
「馬鹿か、おまえ。確かにみんな辛いかもしれねえ。だけど、だけどなっ・・・お前だって辛いんじゃねーか!なら泣け、泣いたって良いだろ馬鹿が・・・」

「あぁ、そうなの・・・かな。私、泣いていいのかな、吾代さん・・・?」
「当たり前だ、バカヤロウ」
「ッう、あぁぁ・・・っ」
簡単な事に気づいたら、もう余計な意地なんか張らなくて、子供みたいに泣く少女を見て、やっと俺は安堵した。



嘘なんかつくんじゃねえ、俺の前でくらい、素直に泣いてろ。





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