お題一

□寄せ集め的散文お題
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19:Liberate tute me ex inferis.


「匪口」

「・・・あぁ、笹塚さん。どうしたの?」
「いや、別に大した用は無いが、」
笹塚さんは、それから何か言いかけて、けれどその続きの言葉は、無かった。
「変なの。用が無いのに俺ンとこ来たの??」
俺の唇は歪んで、不自然なくらい大きく、ハハッと笑う。
「ごめんね。来てくれたのは嬉しいんだけど、俺行かなくちゃ」

「何処に、行くんだ?」
笹塚さんの眉が、少しだけ歪んだ。
「え、それ、聞く?」
俺はまた、さっきの声で。分かりきってるだろ、と笑って。
「桂木のトコ」
「・・・匪口」
「待ってるんだ。俺行かなきゃ」
「匪口?」
「桂木が、待ってる。ずっと、ずっと、ずっと・・・」
「おい、弥子ちゃんは・・・、」
「行かなきゃいけないっ」
「待て、お前、分かってるだろ。もう、」
分かってる?分かってるって、ねえ、“何を”?笹塚さん。


「匪口・・・っ!」
「桂木、なぁ、桂木。俺、今からお前のトコに行くから、だから」
「匪口ッ!!」
笹塚さんが、今まで聞いた事が無い声を出した。
「――――・・・っ」
、知ってるよ。




もう、居ない。



桂木が、居ない。





ああ、ココは地獄。


Liberate tute me ex inferis.
(神様、私を地獄から救って――)





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