お題一

□片想いをする男
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探偵は分かりやすい性格をしている。
まあ、俺も大概ではあるんだが。
とにかくよく顔にも出るし、態度にも出てる。だから、何か落ち込んでいるんだな、と今日のその顔を見て思った俺は尋ねた。
「どうした?」
俺の言葉に、小さな声が返る。だめかもしれないの、と探偵は言った。
「何が」
それには答えず、俯いたまま。

「なんか悩んでるなら、言えよ」
「きらわれたかも、しれな、い」
つぶやいたそれは弱々しく、泣きそうなものだった。
ああ、アイツか、と頭の中で思い浮かべる。――探偵の想い人。

「なんでだよ」
「余計なこと、言っちゃった」
「相手は?怒ってたのかよ」
「ううん、でも、そのあとすぐよそよそしくなった気がして……用事があるって帰っちゃったし……なにか駄目なこといっちゃったのかな、とか、私といっしょに居るのやになっちゃったのかな、とか」
握りしめる拳が震えている。

「直接言われてねえなら偶然だ、偶然。ほんとに用事あったんだろ」
出来るだけ軽く、なんでもないことのように言ってやる。探偵は、顔をあげて俺を見た。
「でも、」
何かを言いかける探偵より前に。
「気にすんなっつの!」
そう言って笑えばお前も笑うんだ。
ほんの少し、悲しげな顔で、それでもお前は笑うんだ。

「がんばれよ、探偵」
「うん」
はっきりと頷いたその微笑む顔を見て、俺の胸はずきずきと痛みを訴えた気がした。
だから、俺はそれに気づかないふりをして。
ぐしゃぐしゃと探偵の頭を大袈裟に撫でて、なんでもないように振る舞う。

「応援、してるから」

(お前が幸せなら、俺の恋は叶わなくてもいい)





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121024
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