忍たま

□ひとりよがりの愛
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「兵助、あの人に厳しいよな?」
三郎が言った。
あの人。名前が出なくとも、頭に浮かぶのはただ一人。

そうか?、と何でもないように誤魔化しておいたけど、あぁやっぱり他人に分かるほど、俺は斉藤に厳しくしていたのかと、改めて気づいた。
もしかしたら、人の変化に敏感な三郎だから気づいたのかもしれないが。それでも、少なくとも人に悟られる位感情が出ているというのは俺にしては珍しいと、思う。

言い訳は、通じないだろう。

実際に、自分でも思っているのだから。
どんな事を言おうと、俺はひとりだけ、特別扱いをしている。それが、悪い方であるにせよ。


俺はこんなに、嫌な人間だったろうか。
そんな事を思うほどには、自分勝手な感情で、最近は動いている気がする。

斉藤にいっそう厳しくするのは俺のエゴ。

忍は厳しいものだから、傷つけられる事もあるだろう、心も、身体も。それに耐えられなかったら、――
もし甘やかして、守って、それであの人を、結果的にもっと傷つけてしう事になったとしたら。あの人が俺の近くから、離れてしまったら。
俺が、きっと駄目になる。

俺の近くからいなくならないで欲しい。
ただそれだけで。

そうして、斉藤に抱いている、この感情も、奥にしまいこんでおきたくて。
全部全部、俺のため。


あぁ、今日も少しだけ、失敗をする斉藤に、やっぱり厳しい言葉を吐き出してしまう。本当なら一年生よりも経験が少ないのだから、ここまで出来れば大したものだというのは分かっているのだけど。
「斉藤、そうじゃないだろう、何回言えば分かる?」
これくらい大丈夫だ、とか。これだけ出来れば凄いよ、とか。きっと、先輩の立場なら言うべきなのだろう。
本当に俺は自分の事しか考えていないんだな、と自己嫌悪する。
三郎なんかに不用意に話したら、そんな事ならやらなければ良いのに、と言われそうだ。
「ごめんね、俺迷惑かけっぱなしで」
謝る斉藤に、心が少し、痛む。

ひどい言い方しか、した事がない様に思う。
けれど、貴方はまだ、俺に笑顔を向けてくれる。
放り出したりしないんだ。

目の前の事も。
俺のこと、も。


貴方は強い、俺は脆い。
(貴方の笑顔が、)
(俺の心を溶かすから、)
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