忍たま

□笑うと、
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「お前は、小平太のとこの、」
次屋、だったか――と言いかけて、言う前に、その目を向けた本人に、それを遮られた。
「作兵衛の、委員会の。食満、先輩」
「あ、あぁ」
先に言われて、少し戸惑う。
なんだか掴めない感じの物言いをするな、と思った。

きょろ、とあたりを見回す次屋に、どうしたのか、と何となく問いかければ、
「部屋、戻れないんです。迷った、のかな?」
と言って首を捻った。
とぼけているわけでは無いのだろうが、どうにもそういう風に聞こえる。
迷ったかどうかも分からないなんて、一体どうなってるんだ。
しかし考えてみれば、作兵衛がブツブツと、そんな文句を言っていた気がする。いい加減迷子になるな、それが出来なければ方向音痴だと自覚ぐらいして少しは自重しろ、とか。
「……作兵衛も苦労してるなあ」
ぼそ、と呟いたつもりだったのに。
「そう思います」
「え」
次屋の返事が聞こえて、戸惑った。
聞こえていたのか。

「作兵衛、いつも探しに来てくれるんですよね」
ぽつぽつ、淡々。
そんな言葉が適切だ。表情を変えずに次屋が口を開いて、言葉を繋げていく。
「いつも、怒ってるんですけど」
次屋の顔が自分の方を向く。
「でも、絶対来てくれるんです」
少し、嬉しそう、なのか?
そんな雰囲気がした。

「あいつ、優しいんです」
次屋が、ふわりと笑った。
「あ、」
笑えるんじゃないか。

「だから、先輩。作兵衛の事、よろしくお願いします」
ぺこ、と最後に頭を下げて。
「それじゃあ」
そう言ってどこかへ歩き始めた次屋を見て、戻れないんじゃなかったのか、絶対また迷うだろう、と思ったのだけれど。

その自分より小さな背中を、俺は見つめる事しか出来なかった。
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