忍たま

□つまらない冗談
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「文次郎、好きだ」

何がどうなってる?
今、自分は部屋の中で。
目の前には、長年の友、と言おうか、悪友と言おうか。

「好き、って……お前、」
口をぱくぱくとさせて、声を出そうとした。が、なかなか出てこない。
しばらくすると仙蔵は、俺が何も言わなかったからなのかは分からないが、無表情で聞いてきた。
「お前はどうだ?」
どうだ、とは何だ。
「おまえ、から、愛情表現とか珍しい、な。俺か?俺は、お前このことを、良い友だと思っている。好――「違うな」
動揺しているのが少し言葉に出たようで、詰まりながら、それでも答えようとしていたのに、強い口調で遮られた。

「私の言う好きの意味が、分かっているのか」
どういう事だ、分からん。
眉間にしわを寄せて、仙蔵を睨んだら、
「……分かっているだろう?」
――本当は。
と、鋭い目を、向けられた。

目の前に仙蔵の長い指が、ぴたり、と突きつけられる。
「良いか、文次郎。私は、お前を愛している」
どういう事だ、分からん。
分からん、分かってたまるか。
俺は、男だ。仙蔵も、男だ。俺が友と思っている男だ。
そいつが、俺に、愛してる?

「私はお前を愛してる。その上で、貴様の意見を聞いている」
仙蔵の顔が近づく。
びく、と俺は後ずさった。
俺はきっとひどく、動揺している。そしてそれを、隠せていないだろう。
あぁ、修行が足らんな。

仙蔵はそれを汲み取ったかのように。
「冗談に決まっているだろうが」
ふ、と笑いを湛えて、顔を離した。
「冗談……、か」
「冗談だ。ふん、つまらん反応をしおって」
――私は用事があるのでな、出かけてくる。
こちらに顔を向けず、仙蔵はそう言って、部屋を出て行った。
「……お前、こそ。つまんねえ冗談、言ってんじゃねえ、」
もう聞こえていないだろうけれど、せめて言い返さなけりゃ、気がすまなくて。俺は苦し紛れに呟いた。


「冗談、かよ。まあ当たり前、だな」
安心したような、寂しいような。
……寂しい?
そんなわけ、あるか。
冗談で良かったんだ。いや、冗談だと気づきそうなものだろう。
本当に、俺は何故、笑い飛ばせなかった?
『仙蔵、何寝惚けたこと言ってやがるんだ?』
どうしてそう、言えなかった?

ああもう、考えるのはよそう。
きっと、疲れていただけだ。

小さな痛みは、見なかったふり。
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