忍たま

□君の手が触れるのは、
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「お前は、私の髪が好きなのか」
「うん、俺、立花君の髪、すごく好き」
やわらかく、私の髪を触る斉藤の手。
「そうか、それはどうも」
嬉しくなくは、無い。
褒め言葉は素直に受け取って、礼を述べる。

「立花君の髪は本当綺麗」
背後にいる斉藤が、楽しそうに笑う声。
「漆黒の髪」
さら、と髪を持ち上げる斉藤。見えなくとも、自分の髪だ、どうされているのか位は分かる。
今は、櫛で、髪を梳かしているんだろう。
「さらさらの髪」
愛しさをこめたような声。
そんなに嬉しいのか。たかが、髪。
「俺も、こんな髪なら良かったのに」
……別に、斉藤の髪も綺麗だと思うぞ、などと、思っていても言える筈が無い。
無言で、ただ、前を見つめる。斉藤の私の髪に触れる手を、感じながら。


「本当に綺麗」
君の髪、と嬉しそうに、本当に嬉しそうに呟く斉藤。

「見てるだけで、」

「触れているだけで、」

「俺は幸せになれるよ」
ふふ、と笑い声が漏れた。


何だというのだ。

「私の髪が好き、か」
「君の髪が、好き」
まだ、止まらない斉藤の手。

「君は、綺麗だ」
私、では無く。私の髪が、だろう。
髪を梳く以外の音は、聞こえない。
ことん、と。櫛を置いたのか。今度は、髪がひとつに束ねられていく。

今、お前は、私の髪に触れながら、微笑んでいるのだろうか。

何故だろう。

お前が、私自身を好きだと。
言ってくれないのが、こんなにも寂しい。
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