忍たま

□後戻りできない
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「何処行ったんだ、あいつ」
きょろきょろと、辺りを見回す。
食堂にも居なかった。部屋にも居なかった。本当にどこ行きやがった、なんて思いながら、まだ見ていない場所を回る。
「あ」
探していた奴がいた。それと隣に、もう一人。
そいつらの方に駆け寄っていけば、遠くからは見えなかったが、それは火薬を運ぶ姿だった。

探したぞ、と呟いて、
「兵助、先生、呼んでたぞ」
そのうちのひとり、同級生に声をかける。
「え?」
そいつは振り向いて、何かしたかなって顔をしながら、俺を見た。
「行ってこいよ」
俺はもう一度口をひらいて、走ってきた方を指差す。
「ああ、うん。……て、これ」
どうしよう、と自分が持っているものを見る兵助。それから、俺に向いて。
「竹谷、俺これ運んでから行くから」
そう兵助が言った時。
親切でも、何でもなかった。ただ、その時自分の口から出た言葉。
「俺が運んどいてやるよ」
「あ、そうか?じゃあ、頼む」
自分の腕の中にあった火薬を、俺に預けて、
「俺行ってくる。よろしく、竹谷」
そう言って兵助は、俺が来た方向に駆け出していった。

「じゃあ、運びましょうか」
兵助の背中を見送ってから、その横にいた人に、ゆっくりと微笑みながら声をかける。そうすれば、返って来るのは笑顔と決まっているんだ。
「ありがとう、竹谷君」
お礼を言う隣の後輩を見つめ、「いやいや、勝手に俺がした事だから」とイイ人のフリ。
よく目立つ、金色の髪。ふわふわとした雰囲気。
細い、けれどきっと仕事で使い込んだと分かる、綺麗な。手、指。
体は俺より幾分か、線が細く見えた。それでも背は、自分より高く。

「……ん?」
「!!」
じぃ、と見ていたら、その人の顔が、こっちに向いた。俺は目が逸らせずに、ただ顔が赤くなっていくのを感じるだけ。
「俺の顔に、何かついてる?」
ふにゃん、とした顔で尋ねてくるその人を見て、いたら――。

ぐ、と胸が詰まった気がした。

「ついてませんよ。ただ、綺麗な顔してるなあ、って」
あはは、とか声に出して笑って、誤魔化す。
「え、嘘。そんな事言われたの、初めて」
びっくりしたような顔をして、タカ丸さんが俺を見る。
その反応に、今度は俺が驚いた。
「え?だって、タカ丸さん、もてるじゃないですか、一杯言われてるんじゃ無いですか?」
女の子にも、きゃーきゃー言われてる、し。男にだって、こんな綺麗な顔だったら好かれるはずだ。
実際、学園で噂になってんだから……。まあ、半分は編入生って事もあるかもしれないんだけど。それにしたって、この人の話は――よく聞く。
「そっかぁ、うん。そんな事言われたのは初めてだけど……やっぱり嬉しい。竹谷君も、格好良いよ。その髪はいただけないけど」
ちょっとだけ顔を赤くし、けれど軽口を添えて、えへへ、と遠慮がちに笑ったタカ丸さん。どきん、と心臓が鳴った。

あぁ、兵助、ごめん。
やっぱ俺、この人好き、だわ。

無意識に口をついて出た言葉だけど、俺が運ぶ、って言ったのは、きっとタカ丸さんとちょっとでも一緒にいたかった、話したかったから、だし。
兵助の為なんかじゃ無かったんだ、だからタカ丸さんにお礼言って貰える立場じゃ無い。
この人の前で、いつも以上に俺が笑顔でいるのも、きっと俺が好かれたいからって理由だ。


この人に恋してしまってから、俺の全部が嘘みたい。
偽った笑顔に、偽った言葉――。
そんな自分に嫌気がさすけど、それでも。やっぱりこの人を、好きで。

友達の、好きな人だって、分かってるつもりだったけど。
でも、それでも、……好きだ。


ああもう、駄目だなあ、俺。
ごめん、止められそうにないんだ。
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