忍たま

□そんな君を愛してる
1ページ/2ページ

年の割には小さく華奢で、だけど確かにしっかりした同級生の背中を見つけて、そいつの方に駆け寄る。
「おい」
声をかけても、返事が無い。
聞こえているだろうに止まらないそいつを振り向かせる為、仕方なく手を伸ばした。
「伊作!」
細い腕を掴んで、自分の方に向けさせれば――その顔には、痣。
それは初めてのことではないのに、動揺が声に出る。
「おまえ、それ……っ、あいつに、」
「違うよ、私が不運だから。転んだだけ」
そんなわけがない。その不自然な痣は明らかに、殴られたあとだ。
掴んだ腕にも、生々しい傷跡がいくつもあった。伊作の裂けた肌を見て、文次郎は眉をひそめる。
「なんで、抵抗しない」
「……なんの事」
「お前なら避けれるだろ。そんな傷負わなくてすむだろうが」
「文次郎が何言ってるか分からないよ」
「しらばっくれんなよ」
知ってんだぞ、と睨みつけるように目で訴えると、
「本当に、私が不運なだけだよ。私のせいだから、気にしないで」
伊作は、ふいっと顔を背けて、この話はもう終わりだと態度で示した。

自分の部屋に向けて歩き出そうとする伊作を、ぐいっ、と力を込めて引き寄せる。
「っ……!?」
傷だらけの腕を引っ張ったからなのか、伊作は少し、顔を歪めた。
「ぁ、悪い。でも、まだ話は終わってねぇ」
「何だよ、まだ何かあるの?」
「あいつだろ?なあ、今度は誰と一緒に居たから、って理由でやられたんだ、伊作」
「……違うよ、留三郎じゃ無い」
ぎゅぅ、と唇を噛みしめて、伊作は呟く。
「……留三郎とは言って無いぞ」
「――!」
少しずるい事をしたか、と思ったが、聞き出すためにはこれくらいしなくてはいけない。
文次郎は、伊作に向かって口を開いた。
「好きな奴を傷つけるのを、愛とは言わない」
伊作が、びくり、と肩を震わせた。

「伊作、こっち向け」
顔を背ける伊作に、文次郎はぎゅっと伊作の腕を掴んだ手の力を、少し強めた。
それから、そろり、と文次郎の方を向いた伊作に、諭すように言葉をかける。
「やめろよ、なんで、あんな奴」
お前を、傷つけるだけのやつ。
俺なら――

しばらく伊作を見つめていると、ゆっくり唇が開く。
「愛してるから」
か細いけれど、それでも、変えることが出来ないと思わせるほどの、強い意思を含んだ声。
「私は、留三郎を愛してるから」
それから、フッと微笑んで。
「ありがとう、文次郎。私は大丈夫」
それは、心配したことに対してか、それとも、文次郎の気持ちに対しての労わりだったのか。
そ、と自分の腕を掴む文次郎の手を退けて、伊作は背を向けた。

「ちくしょう、」
伊作は、留三郎を愛している。
留三郎も、伊作を愛している。
愛し合った結果が、伊作を苦しめる痣になる。どうやっても、助けることなんて出来ない。
文次郎は、悔しさに顔を歪めた。

「それでもっ」
ぴく、と後ろを向いた伊作の肩が揺れる。
「俺は、あきらめねぇぞ……!」
それだけを言って、拳を固く、握った。
それからしばらく、その場に立っていた伊作が、また前を向いて歩き出す。
「ありがとう」
小さく小さく、去っていく伊作から、そんな言葉が、もう一度。
文次郎の耳に届いた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ