忍たま

□零れ落ちた、
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「俺、兵助くんがいないと駄目なんだぁ」
へにゃり、という形容が相応しいだろう笑顔で、斉藤は俺の後ろを何時もついてくる。
嫌いなわけでは無かったけれど、どうにもめんどくさくて。
「勝手にしろ」
それだけ言って、後は好きにさせた。
そうしたら、来る日も来る日も、斉藤は俺の少し後ろを追ってきた。だけど、それだけ、で。

いつの間にか学園では俺の後ろには斉藤が必ずくっついてる、という認識になっていた。
「お、今日はいないのか?」
「タカ丸さんはどうしたんだ?」
「寂しいねぇ、兵助くん?」
等々。
斉藤がたまたま居なかっただけで、会う人間会う人間にそんな風に言われるようになって。あまりに言われるから、いちいちうるせえな、と思った。
「別に傍にいろって言った覚えは無いし、あいつが居なくても俺は何も困らない」
からかわれるたび、俺はそう言って相手を睨んだ。



ある日、あいつが居ないときに(居ないときを狙ったのかもしれないが)同じ学年の綾部がいきなり俺の胸倉をつかんで、責めるように問いかけてきた。
「久々知先輩、タカ丸さんの事、どう思っているんですか?」
態度がおかしいだろ。人にモノを尋ねる態度がそんなので良いと思ってるのか、こいつ。
そう思ったけど、いちいち相手にするのも面倒だ。問われたことにだけ、言葉を返すことにした。
「別に。なんとも」
しばらく睨まれて、それから雑に掴まれていた胸倉を離された。
「今に後悔しますよ」
無表情な綾部は、それだけ言うと、俺の前から姿を消した。
何だって言うんだ。どいつもこいつも、斉藤、斉藤、斉藤。
俺は別にあいつに興味を示した覚えも無い。あいつが勝手に寄ってくるだけだ。


「兵助くんっ」
斉藤の声がした。
振り向けば、誰より目立つ金色の髪。
「俺、まだまだ何にも出来ないから補習があったんだ。でもね、少しずつ出来るようになってるんだよ」
初めて会った時と変わらない、へにゃりとした笑顔。
(別に、聞いて無いけどな)
「ふうん」
それだけ返事。それなのに、えへへ、と斉藤は嬉しそうにしていた。
ほんと、何なんだろうなこいつ。俺についてまわって、ただ話をして、俺はたまに気が向いたとき返事を返すだけ。なのに、こんなんで満足してるのか。

「さっきね、綾部くんに会ったんだけどね、今度お買い物に行きませんか、って言われちゃった」
綾部?何であいつの話をするんだ。
なんとなく、そう多分綾部が気に食わないからだろう、その話に俺は苛々した。
「初めて誘われちゃった。俺、友達居ないから、嬉しいな」
えへへ、と笑う。それは俺が返事をしてやった時ほどの、うれしそうな笑顔で。
むかつく、何だそれ。あいつの話で笑うなよ。なんだ俺じゃなくても良いんじゃないか。
こんなに苛々してるのは、きっと綾部がこの上なく気に食わないだけだ。それだけだ。
「綾部くん、友達になってくれるかな」
先程から、綾部の話しかしていない斉藤を、少し睨みつける。
「綾部が友達になってくれるんなら、俺はいらないだろ」
「え?」
へーすけくん、と何時ものふにゃふにゃとした声で俺を呼ぶのが、今は何だか無性に腹が立って、
「良かったな。もう俺の傍をうろつくなよ」
それから何かを言おうとしていた斉藤を無視して、自分の部屋に足を向けた。

「へーすけくんっ?ねえ、やだよ。俺兵助くんがいないと駄目なんだ、って、ねえ、言ったでしょ。兵助くん、」
遠くなっていく斉藤の声。泣き出しそうなその声を聞いて、俺も泣きそうになった、なんて、気のせいだ。
「俺には関係ない」
声に出さなければ、いけないような気がして。
小さく、それだけ呟いて、俺は斉藤を残して部屋に戻った。
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