忍たま

□「嫌い」の代わりに君に「好き」と。
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あぁ、あれは――。


「くくちくん」
「……チッ」
振り向いて俺の顔見た途端、舌打ちは止めて欲しいなあ。
せっかく話しかけてあげてるのに、失礼じゃない。

「何か用ですか」と不機嫌に聞かれ、「特に用はないけど」と答えれば、ひどく信じられないとでも言いたげな顔をされた。それから、じゃあ話しかけるんじゃねえよ、というような意味の言葉を少し遠回しな表現で告げられたので、俺は曖昧に苦笑をしておいた。
「いいじゃん、ねえ委員会一緒なんだし」
それを口にした後、久々知君の顔を見たら、不愉快だと言わんばかり。
本当にひどい先輩だ。まあ、俺もそんな顔されること、分かってて言ったから良いのだけど。


「久々知くんは、俺のこと、きらい?」
聞いたそばから、そんなこと当然だって顔しないでよ。
わかりやす過ぎるんじゃないの。
「別に、そんなことは」
――無い?
嘘でしょ。思いっきり。
今更言葉でだけ取り繕ったって、遅い遅い。
言葉をオブラートに包むくらいなら、もうちょっと表情もオブラートに包んでよって思う。
ああでも本当は、取り繕う気も、オブラートを使う気も、無いんだっけ?
体裁だけ保てれば良いんだもんね。
分かるよ、……俺もだから。
「俺は、久々知くんのこと、大好きだよお」
せっかく言ってあげたのに、ひどい顔だ。それは例えば虫嫌いな人間が、その大嫌いな虫を目の前に差し出されたかのような顔をしていて。
――最高だね。その顔だよ、俺はその顔が好きなんだ。
俺も君なんか、だいっ嫌いなんだけどね、その顔だけは好きなんだぁ。
「好き。とぉっても、だいすき」
その顔が、好きなんだよ。
憎いって感情が形になったくらいの、その表情を、その表情をしたままの君をね、殺して固めて、永遠に飾っておきたい。
君が大嫌いな俺に殺されたという、最高の事実【勝者の証】を、ずっと眺めていられたら、俺は幸せになれそう。

それくらい、好きだよって。
こんなに言ってるのに、君は俺を好きって言ってくれないよね。
なんでかなあ。


「どうすれば好きって言ってくれるの」
俺はこんなにも、君がどうやったら顔を歪めてくれるか、苦しんでくれるか、痛がってくれるか、――底に落ちていってくれるのか。
いっぱい考えてるのに。

君のあの顔が大好きだから!

だから、久々知くんも俺のこといっぱい考えて、そして大好きになるべきでしょ。


なのに俺のこと大嫌いな。
そんな君が、本当に、大好き(大嫌い)だから!
消えてくれれば嬉しいな、って、きっと君も一緒のこと考えてるんだろうね。……気持ち悪い。
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