忍たま

□鳳仙花
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触れれば壊れてしまいそう。
「伊作」
だから、名前を呼ぶしか出来ない俺を、言えば伊作は意気地が無いと、笑うだろうか。

それでも俺には、お前が「触れないで」と。
言っているようにしか見えないのだから。



「あ」
突然伊作が声を出したものだから、俺の体はびくりと跳ねた。
それから、どうしたんだと伊作の方に目をやる。
「ん、ちょっとね、切っただけ」
そう言って困ったように笑う伊作の、細く白い指に映える赤が、目に入った。
「おいおい、大丈夫か」
「そんなに痛く無いよ」
伊作の指が白いからか、ひどく鮮明に赤い色が目に映るが、本人は大した事は無いよと俺に言う。
それでも、どくどくと止まる様子の無い血に、俺は眉を寄せた。
「本当に大丈夫か」
「君は心配性だよね、ほんと」
言ってまた、伊作は眉を下げて苦笑した。

「俺が手当てしてやろうか」
保健委員で無くとも、この学園に六年もいるのだ。自分もよく怪我をするせいもあってか、そこそこの応急措置なら出来るはず。
それでも自分で自分の手当ては手こずるというか。やはり難しいから、何時もは伊作にやって貰っている。
それを考えると、いくら伊作でも自分の手当ては難しいだろう、と思って、そう提案したのだが。
「いいって。自分でやるから」
俺の申し出に、怪我をしていない方の手で、断りを入れる。ありがと、と呟きながら。
そうして、自分でその怪我に消毒をし始めた伊作を、俺はただ黙って見つめた。

そんなに拒否する事でもないと思うがな。
ぼんやり、伊作の治療している姿を見ながら考える。
宿題やら、雑用やら、なんてことない用事なら伊作から頼ってくるほどなのに。治療だけは、毎回どんなに怪我がひどかろうと、自分でやる。

なぁんか、触るなって言われてるみてえなんだよな。
伊作にそんな意図は無いとしても、だ。
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