忍たま

□それは愛です
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「久々知くん」
声をかけられた久々知が振り向くと、そこにいたのは委員会の後輩だった。
「どうした、斉藤?」
「あの〜、勉強、見て欲しくって」
良いかな、と斉藤が首を傾ける。
これから用事も無いし、と思って、久々知が返事をしようとした、その時。
「勉強なら私が見てあげますよ」
綾部が突然、二人の間に割り込んだ。
「あ、綾部くん?」
「綾部……」
どこから出てきたんだ、と困惑する二人をよそに、綾部は言った。
「良いですか?久々知先輩」
ぐるり、と顔を久々知の方に向けて、綾部は斉藤の袖をひっぱる。すでに連れて行こうとしている体勢だ。

久々知はしばらくその様子を見つめていた。
じっ、とするどい視線が、逸らされることなく注がれる。
「別に、」
構わない、と久々知が言い終わるが早いか、綾部はぐいっと斉藤の袖を掴んだまま、歩き始めた。
「え、ぇ」
状況把握を出来ないまま、斉藤はもつれる足をなんとか動かしながら、綾部について行く。
「えっと、ごめんね、久々知くん!」という叫びを残して。


早足で歩く綾部に、斉藤は眉を下げながら、それでもなんとなく話しかけられる雰囲気では無い気がして、黙って斜め前にいる同級生の子を眺めていた。
そうすれば、ふいに綾部の顔が、こちらに向く。後ろを見れば、もう久々知の姿は無い。
「タカ丸さん」
「なぁに」
淡々、と言う言葉が相応しいだろう、綾部が斉藤に向かって言葉を紡ぐ。
「久々知先輩は私のなんです。出来れば、」
一呼吸。

『手を出さないで頂けますか?』

ぽかん、と一瞬、斉藤が呆けた顔をした。
それから、
「え、ぁ、うん」
そうなの?と斉藤が言葉を続ける。
「はい」
「そっか、そうだったんだ」
ちょっと戸惑いながらも、何を言われているか把握した斉藤は、
「分かった、大丈夫だよ。俺、久々知くんには手ぇ出さないし。応援するよ」
綾部に、安心して、とにっこり笑った。
「それならば良かったです。では、勉強をしましょうか。タカ丸さんの部屋で良いですか?」
うん、と頷いた斉藤に、また、綾部は早足で歩き出した。
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