忍たま

□春遠からじ
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ふわふわ。
外は雪が降って寒いから、俺は座ったまま布団にくるまって甘酒を飲んでいる。
あったかくて、ふわふわ。気持ち良い。
ああ、幸せだ。幸せってこういう時間を言うんだろうなあ。


ふわふわ。

ふわふわ、
ぱちん。
「……うわぁっ」
眼前に、綾部くんの顔。
「え?えっ何なんで、」
「おはよう御座います」
「お、おはよう?」
あれ、『おはよう』?
俺はさっきまで、外の雪が見える場所で、布団にくるまって甘酒を飲んでいたのではなかったか。
それでは、今の俺の状態は。
確かに布団の中に入っている。けれど、座ったままではなく、横になっていたし、こんな状態では外の景色なんて見えない。
あれ?、と疑問に思っていると、
「タカ丸さん」
「うぇえぁ、あ、何?」
綾部くんが未だ、俺の顔を覗き込んでいたままだと、気づいた。

ということは、つまりは、
「夢かぁ……」
なんだか幸せな時間だったのに。
ぼうっと今までみていた夢の世界に浸っていると、布団が剥がされた。
冷たい風が身体にまとわりつく。
「ふわぁあ!?さ、寒いぃ。あ、やべくん、何するのっ」
「寒いのは当たり前です。冬ですから」
「そういうことじゃなくてええ!ていうか、布団!布団返してっ寒いよぉお」
「タカ丸さん」
「な、なに」
「甘酒を一緒に飲みませんか。持ってきたんです」
見れば、いつの間にか両手に甘酒が二つ。
何処かに置いておいたのだろうか、さっきまでは見当たらなかったと思うのだけど。
とりあえず、この状況に温かいものはうれしい。
「え?あ、うん。もらっていいの?」
尋ねると、こくんと首が縦に動いた。
「はい、その為に持ってきたんです」
「やったぁ、ありがとう」
了承を貰ったので、ひとつの甘酒を受け取ろうと手を伸ばそうとしたら。
綾部くんの顔が、別の方向を向く。
何かあるのかと、その視線の先を追いかけた。
「雪ですよ、タカ丸さん」
「あ、ほんとだ」
道理で凄い寒いと思った。扉がひらきっぱなしだったんだ。
綾部くんてば、部屋に来るときに閉めなかったのかな。うう、寒い。

だけど、開いた扉の外に、綺麗な綺麗な白い世界が広がっている。
「わぁ、きれーだねえ。でも、俺は見てるだけでいいかなぁ。雪って寒いじゃん。俺、冬に外出るの苦手だよぉ」
ぶるぶると震えながら、綾部くんが奪って放った布団を、引きずって自分の元へ戻す。
「冬来りなば春遠からじ」
ぽつん、と綾部くんが雪景色を見ながら呟いた言葉が、俺の耳を通る。
「?」
「雪は溶けますよ、タカ丸さん」
はい、と甘酒をひとつ、渡される。
「ん、ありがとう」
受け取ると、それはとても温かくて、すっかり冷えた手にじんわりと温もりが戻っていくような気がした。
あまりに冷えていた手だから、暖かいものに長く触れていると、少し、くすぐったくなってきた。
「なんか、むずがゆくなるよね、あったかいもの」
「そうですね。ひりひりします」

ふわふわ。

外の雪がひらひらと舞う。ここから見える世界は真っ白い。
座って、布団にくるまりながら綾部くんの持ってきてくれた甘酒を、啜った。
あったかいなあ。


ふ、と気づく。

あ。
これ、夢と一緒だ。
ふわふわ、幸せな時間。
正夢ってやつだろうか。


「タカ丸さん、寒いですね」
甘酒を啜りながらの綾部くんの声が横から聞こえる。
あ。
夢と、ひとつ、違うところ。
「ううん、あったかいよ」
君が横に居る。


あたたかい冬だ。

春も、そう遠く無い。
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