忍たま

□それでもおれは世界を愛せる
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どうして、どうして、

俺を好きになんてなってくれないのに。


それでもあなたはおれにやさしい。





「兵助くん、俺、何かしたかな?」
整った眉をふにゃりとさげて、斉藤は俺の顔を覗き込む。
その姿は、俺よりも背が高いくせに、小さく感じられた。
「別に、何も」
「本当?」
不安そうな顔。
きっと俺の態度はこのひとに対して良くない。だって、少しでも近づいてしまえばきっと、どうしようも無くなる。何時だって斉藤の姿を目で追って、触れたくて、愛して欲しくてたまらないのに。
だけどそんな事、貴方はきっと望んでいない。困らすだけだ。
それならば、避けるしかないのだから、これ以上、どうしろと言うのだろう。

「兵助くんが、」
斉藤が小さく言葉を落とす。
「俺を嫌いとか、それならとても悲しい。悲しいから、俺は君に好かれるように、頑張りたいんだ」
縋るような目だ。
「ねえ、俺は君と仲良くなりたい」
ああ、なんて優しくて無邪気で、
「俺はそんな言葉、聞きたく無いんだよ」
俺にはとてもとても、苦しくなる。

「なんで……?」
そんなに辛そうな顔をしないで。
だって、じゃあ、どう言えば良い?
言いたい言葉は言えなくて、今言うべき言葉も思いつかなくて。俺はただただ、斉藤を見ていた。
見つめた先の愛しいその人は、それはそれは、とても悲しい顔をしている。そんな顔を見ていたなら、もしかしたら、なんてあるわけが無いと否定しながらもやっぱり少しだけ、期待してしまうじゃないか。
だから貴方と話すのは、嫌いなのに。

「望むなら、俺を好きになって欲しい。だけど、それを貴方は出来ないだろう?だから、」
言葉が詰まる。
言ってしまった。
顔を上げられなくて、体が震える。
しばらくの無言。
斉藤がどんな顔をしているとか、ましてや斉藤がどんな事を思っているかとかそんなものは分かるはずが無い。
自分では今のこの言葉の続きは言う事が出来ない。どうにもならないから、ただ、黙っているしか出来ない。
「兵助くん」と、斉藤の声が、自分が考えていたより近くで聞こえて、反射的に顔を上げる。
何時の間にか、触れられるほど、近く。
斉藤は笑っているのだけれど、その笑顔で、分かってしまった。いや、元から分かっていたじゃ無いか。
このひとは、俺を好きにならない。


「ごめんね、……ありがとう」
俺の手を握って、斉藤は泣きながら笑った。



あなたの困ったような優しい笑顔を見ると、

おれはこれからもあなたを愛し続けてしまう、そんな気がするんです。
(俺の立つ場所。そこにあなたは居なくとも、)
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