忍たま

□所有権
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やあ、と曲者はなんの躊躇いもなく保健室に姿を現して、その場に居る保健委員長に朗らかに語りかけた。
「今日もいい天気だね、伊作くん」
「そうですね」
またですか、という表情をしながら、もう無駄なことと分かっているのだろう。何も咎めるような言葉は伊作の口から出てこない。

「今日は何の用ですか?」
「いやぁ、可愛い下級生にお土産を持ってきたんだけどね」
「生憎ですが、今日はいませんよ」
「そうかい。残念だね、それじゃあまた今度にしようかな」
「そうしてください」
「…………」
「……帰らないんですか?」
「えっお茶出してくれないの?」
「え?だってもう用事終わったでしょう」
当たり前のようにそう言った伊作の目は、ここに貴方の居場所は無いですよと物語っていた。
「ねえ、伊作くん。なんか冷たくない?なに、君に会いに来たって言わなかったから拗ねてるの?大丈夫、本当はほとんど君に会いに来るための口実だよ」
「…………」
冗談のように発せられた言葉に、伊作は黙ってはぁ、と溜め息を零した。
何かを諦めたような溜め息だ。
「なにそれ。せめて拗ねてませんよ、て否定するとかしてくれないの。そっちのほうがまだ可愛げがあるのに」
曲者が発した軽い抗議の最中。
「伊作、居るか?」
掛けられた声に伊作の顔が反射で上がる。扉の前に、見慣れた友人の姿。
「あぁ、留三郎。どうしたの」
「……なんでそいつがいるんだ」
むっ、と分かりやすいくらいに不機嫌になった留三郎に、曲者は楽しげな笑みを湛えた。
「やあ、先にお邪魔しているよ」
ともすれば挑発ともとれそうな言葉を添えながら。





「好かれてるねぇ。おじさん妬いちゃうよ」
「……大人気ないですね」
再び二人になった保健室に、表情の読めない大人の問いかけと、少年の呟き。
「そうかい?そんな事ないよ」
「結局留三郎は僕に用件を伝えるだけで帰りましたけど。あんなに挑発していたら、喧嘩っ早い留三郎の事だからもうすぐ勝負でもふっかけるところでしたよ」
「いやぁ、だってね。分かりやすく不機嫌になるんだもの、あの子」
面白いじゃない、と楽しいのか馬鹿にしているのか、やはりと言って良い表情の読めない顔がそう言って笑う。
対して、はっきりと目の前の少年は言い切る。
「きっと、雑渡さんの事が嫌いなんでしょう」
「ひどいものだね。こちらこそ、君と親しいあの子に、不満一杯だと言うのにね」
と、冗談めかせば、
「嫉妬ですか?あんなもので嫉妬していたら、身が持ちませんよ。僕達、仲が良いんです」
伊作は薬草の整理の手を止めずに、きっぱりと言いのけて、笑った。
「そうだねえ、君達は本当に仲良しだ」
曲者は考え込む。
仕草を見せただけで、その実、本当は後に続く言葉はもう、用意してあったようだ。
「ねえ、でも駄目だよ?君は私のものなのだからね」
にっこりと微笑み、武骨な指が伊作の顎を持ち上げる。
ゆっくりと近づく顔。

――――ガッ。
「!?」
突如。近づく包帯で包まれた顔を、伊作の手が捉えた。
包帯の隙間から、伊作の指が滑り込む。
「……っ」
ぷつり、と白で覆われた下の皮膚に爪が食い込む。じわじわと赤色が白色を侵食していく。
「雑渡さん、何か勘違いしていませんか?」
今度は伊作が、ふわりと微笑んだ。



「私が貴方の物、では無く、」

良いですか、貴方が私の物なんですよ。
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