忍たま

□依存者
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居ない居ない居ない居ない、居ない。
あの子が居ない。


「……っ、はぁっ、はっ」
部屋に帰ったら、待っていてくれると思ったあの子が居なかった。
隠れているわけじゃなかった。
何処にも書置きもなかった。
探して探して、何処かに俺に伝えるための手段を残してくれているんじゃないかと探して、何もなくて。
――俺は絶望した。
何処に行ったの。
ねえ、何処か行くときには俺に伝えてって言ったよね。ねえ、なんで何も言わないで俺から離れたの?
俺は言ったよ。委員会あるから、ごめんね、ごめんねすぐ帰るよ、終わったらすぐ帰るから、待ってて、すぐだからね、待っててね。
言ったよ?
もし俺の委員会中、何処か行くなら書置きしておいてね、場所もちゃんと書いてね、俺もすぐ行くから。
お願いしたよね。
離れてる時間が惜しいんだ。ずっと一緒に居たいのに。
どうして。

息が苦しい。
「……ふ、ぅ、はぁっ、……っ」
周りがぼやける。
それはそうだ。だって世界の中心が居ないのだから。
焦点が合わない。
「なんで、なんで?何処行ったの……?」
俺より大事な用だったの?
俺に知らせることも出来なかったの?
俺のこと考えてくれなかったの?
俺はちゃんと全部、言ってるのに。なんで、なんで言ってくれないの。
怖いよ。俺は、もしかしてを考える。
離れているこの間に、誰かに襲われたりしていないかとか、何処かで事故にあっていないかとか、考えて死にたくなってくる。
だって君が居ないと、俺は――――。
嫌だ嫌だ嫌だ、なんでなんでなんでなんで。俺には君にしかいないのに!
全部全部全部知っていないと。君が何処でいつ何をしているか、知らないと。
俺は君のそばにいけない。

「何処行ったの、早く早く早く」
姿が見えないと、世界は恐怖に変わるんだ。



「兵助?」
「……!」
「戻ってたの。早かったね」
「かんえもん、」
「ごめんね、ちょっと鉢屋に呼ばれてさ」
やっと見えた俺のすべてに、早く縋り付きたくて走って飛び込む。
勘右衛門は少しよろけて、それでもちゃんと踏ん張って耐えてくれた。
「おわっ、兵助?」
勘右衛門。勘右衛門がいる。そう思ったらぼろぼろと涙が出てきた。良かった、帰ってきた、と思ったのと同時に、なんで、と思っていた事が頭の中で溢れて。
俺の約束、より。鉢屋が呼んだほうに傾くの?俺は違うんだよ。一番は勘右衛門しかいないのに。
「勘……っ、なんで何も、俺すぐかえるって、言ったじゃん。だかっ、だから待ってて、って。行くなら、俺に分かるようにって……!」
「委員会やってるから兵助帰るの遅いだろうと思って。ごめんね?」
「でもっ、俺が、もし、帰ってきたときのこ、と……っ、何で考えてくれなかった、の」
「いや、だってすぐ済むかなって思って」
「す、済まなかったじゃん。おれ、待ってた、んだよ?勘、勘右衛門。待ってた、勘右衛門居なかったっ!」
「なに、もう良いじゃん。俺帰ってきたんだし、いちいちなんて、」
“面倒くさい”
「…………、え?」
勘右衛門が何を言っているか分からなかった。
だけど勘右衛門の唇は確かにその言葉をかたどる。
え、だって、面倒くさいって、だって。俺は、本当は君と一秒だって離れていられないのに。
君が何処にいるかとか、何をしているかとか。目で見ていられないなら、せめてそれを知っていないと俺はおかしくなる。
――のに、違うの? お前はそうじゃないの?
「勘右衛、門」


ぐるん。
眼球が回った気がした。
世界が傾く。
「嫌だ」
勘右衛門が、離れてく。
勘、勘右衛門。
いなくならないで、お願い、お願いだ。
君が居なくなったら俺はどうすればいい。君が居ないと耐えられない。

「やだ、勘っ、勘右衛門、だって、俺、俺は」

勘右衛門。
勘右衛門、勘右衛門勘右衛門。

「お願い、だ。駄目なんだよ、勘右衛門、勘右衛門っお前が居ないと怖いんだ、だからっ」
ぐらぐら揺れた。
世界が壊れる。俺の世界が壊れちゃう。
勘右衛門、俺の手を取って。早くしないと、この世が終わる。
「……うん、ごめん兵助」
伸びた手は優しくて、俺を包みこむ。
「勘、……」
はぁ、と息が漏れた。
触れた優しさに、安堵の息。
勘右衛門の温かい手。俺に触れてくれる手。
する、と優しく俺の肌を滑って。

「ごめん。今度からちゃんと書置きするね、離れる時間も少なくする、だから大丈夫。兵助、ほら、俺ここ居るから」

ああ、やっと俺の平穏が戻ってきた。
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