忍たま

□一歩だって動けない
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だって思ったのだから仕方ない。
どうしたって好きなんだと。


それでも俺の思いは叶わないけれど。

だって俺が愛したあいつは、ひとりしか見えていない。




雷蔵しか見えてないくせに。俺にまで手をだすお前は最低だね。
俺を愛せるはずがないのに。愛したふりをするお前は最低だね。

俺が愛してしまったことを知って、俺から離れられるはずがないことも知って、それでも別れの言葉を吐かないお前は、狡いよ鉢屋。


「雷蔵、」
ねえ、君は知ってるかい、そんな狡い鉢屋の顔を。

呼びかけた相手が、ゆっくり振り返る。
「ちょっと、話があるんだけど」
続いた俺の言葉に、雷蔵はきょとんとした顔を見せた。
なあに、と首を傾けて、何も知らない無垢な顔。
鉢屋、本当にお前はひどいね。
こんな純粋な雷蔵を裏切って、俺にも手をかける。
雷蔵しか好きじゃないくせに、俺を突き放さないでいる。
最低。最低だよ、鉢屋。

でも、そうだよ。だからお前との関係を全部ぶちまけてしまおうか、なんて。

こんな俺も最低。


お前のせいだからね鉢屋。
後ろにも前にも身動きがとれないなら、いっそ壊してしまうしかなかったんだ。
そんな状況を作ったのは他ならぬお前だから、許して、くれるだろう?



「どうしたの、勘右衛門?」
雷蔵のまるい目が、俺を覗き込んだ。
「え、あ、えっと」
――あ、どうしよう。

狡いや。
鉢屋、なあお前はここまで分かってたの?


なにも知らない雷蔵の、その瞳を汚すなんて、出来ないじゃない。

なんでもないよ、と呟いて、俺はまた、身動きがとれないままだ。
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