忍たま現代

□編入生の斉藤タカ丸
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編入生がやってきた。
自分のクラスでは無いらしいけど。

金髪の、なんだか軽い感じの男だった。
目に入ってきた瞬間から、へらへら笑っていて。きっと苦手な人種、だと思った。関わらないでおこう、と。

それでも、一日、一日と日がたつにつれ、どんどんとその編入生は学年で話題の中心になっていく。どうにも人から好かれる性格のようだ。
だけれど僕は、自分からその人に話しかけはしなかった。もともと人とはあまり積極的に関わらないほうだったというのもある。話すのは、滝夜叉丸と……クラスは違うが、三木ヱ門くらいだろうか。
二人はもう、その人になついてしまったみたいだが。


しばらくたったある日のこと、滝夜叉丸が問いかけてきた。
「喜八郎はタカ丸さんが嫌いなのか?」
「……話したことも無いのに、どう嫌えっていうの」
「それはそうだが」
実際、良い印象は持っていないけど、嫌うというのは違う気がする。
現状では嫌う事すら出来ない。まだあの人の性格の端さえ、掴めていないのに。
「滝夜叉丸はあの人が好きなの」
あんまり興味はなかったけれど、暇潰し程度に聞いてみる。
しばらく僕を真顔で見ていた滝夜叉が、にっこりと笑った。
「あぁ!あの人は、良い人だぞ」
正直少し驚いた。あの滝夜叉丸に、ここまで言わせるなんて。
きっと顔には、出ていなかっただろうけれど。

「あ、滝夜叉丸くーん」
誰かの声が、滝夜叉丸を呼んだ。
「タカ丸さん!」
……噂をすれば、だ。
僕たちの方へ駆け寄ってきたその人は、滝夜叉丸の顔を見たあと、僕へと目線を移した。
「滝夜叉丸くん見つけた!……あれ?んんー、あっそうだ、綾部くんでしょ?」
少し唸ってから、思い出した!と嬉しそうに微笑む。
僕は何の感情もなく、ぺこりと小さくお辞儀をした。
「はい、こいつが綾部です」
滝夜叉丸が、代わりに僕のことを話している。
「ふふふ、滝夜叉丸君からよく聞くよ!表情無くて分かりにくいけど、結構面白いやつなんですよ、って」
あはは、と楽しそうにタカ丸さんが笑い声をあげた。
その後すぐに、「ちょっ、それは言わないでください」と焦った滝夜叉丸の声がする。
――へえ、滝夜叉丸ってそんな事思ってるんだ。
おかしくて、ちょっとだけ口元に笑みがこぼれた。

話を聞いていれば、どうやらタカ丸さんは僕たちより年はふたつ上らしい。なんでも、美容師を目指していて、高校には行っていなかったそうだ。
そういう生き方もあるんだなあ、とぼんやり考える。自分には考えの無かった生き方だから。……少し羨ましくもあるのかなあ、と思ってみたりも、する。
「珍しいですよね」
「そうだね。あんまり居ないかも。でも結局、ちゃんと学校行きたくなって」
照れたようにタカ丸さんは頬を染めた。
「……凄いですね」
ぽろり、と零れた言葉。
数秒後に、びっくりする二人の顔が見えた。おやまあ、そんなに変な事をいっただろうか。
「え、ありがとう」
どうしていいか分からないように、タカ丸さんはぽりぽりと頭をかく。
そして、僕の手を握った。
「……?」
「でも、綾部君の方がすごいよ」
自分の何がすごいのか。特にたいそうな事をした覚えは無い。
「何故ですか?」
「ちゃんと高校で学んで、自分で何かを見つけてる途中なんでしょ。だから俺のこと凄いって言ってくれたんだよね。……俺は、それが出来なかったから。だから、今から頑張るよ」
何だか、この人が好かれるわけが分かったような気がする。
そういえば、まだ出会って数分。それなのに、もうこんなに引き込まれてしまっている。この人の凄さは、こんな風に自分のスペースに引き込んでしまう力なのかもしれない。
興味がなかったはずなのに。何故みんなこの人のもとへ集まるのだろうと不思議に思っていたはずなのに。今はもう、僕もこの人に惹かれているのだ。
よく、変わっている、なんて言われる僕だけれど。自分も他の人間と、大差無いんだなぁと思う。

「それじゃあ、そろそろ授業だね」
へらり、とした笑みを湛えたまま、そう言ってタカ丸さんは去っていった。
残された、滝夜叉丸とふたり。滝夜叉丸の口からは、驚きの声があがっていた。
「まさか、喜八郎からあんな言葉が出るとは思わなかった」
「……そう?」
「興味がないのかと、思っていたのにな」
「……今度、いつ会えるかな」
そう呟いた僕の顔を、また驚いた表情で見つめて、それから滝夜叉丸は微笑みながら、
「今日、帰りを誘ってみようか」
と、僕の肩に手を置いた。
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