忍たま現代

□報われないから、底に
1ページ/2ページ


「留三郎、相変わらずモテるね」
校内にある自動販売機で、ジュースを買ってきた帰り。
俺に向かって、伊作が楽しげに話す。その目線は俺を透かした遠くを見ている。先には二人の女子生徒が居た。
その女子生徒は俺のほうを見て、「目が合った」だとか「やばい」だとか言っている。
何がやばいんだ、何が。意味が分からない。
「伊作こそ、よく後輩からきゃーきゃー言われてるじゃねえか」
「そう?照れるなあ」
なんて、頬を染めて照れた隣の男は、本気なのか冗談なのか。

「彼女、つくんねえのか?」
突然だったかもしれないな、と考えながらも、伊作の方に目を動かす。
「うーん、今年受験だし、忙しいだろう?それに、今はそういう相手もいないしね」
苦笑いしてジュースを啜った伊作の、「あ、もう無くなった」という声がした。
「そういう留三郎はどうなの」
「……俺も、同じかな」
目を伏せて、話を合わせておく。
それ以外に、どう言えばいいものか思いつかなかったから。
「ふうん?」
何か、含んでいるものがありそうな相槌。
ふふっ、と面白そうに笑って、伊作はさらりと言った。
「嘘でしょ。僕の顔、見てない」
簡単に見透かされた、俺の嘘。
そんな事を言われたら顔なんて上げられない。こんなとき、俺はどうすりゃ良いんだよ。
「好きな子でも居るの」
笑ったまま、伊作は「なんてね」と付け加えたけれど。
こいつは何もかも分かっているみたいで、怖かった。
だってもしも、俺の想いが知れてしまったら。それ以上に恥ずかしくて、この上なく怖い事があるだろうか。
絶対に、知られてはいけない。
だから俺は、必死で嘘をつく。
「は、そんなヤツいねーよ」
カラカラに渇いた喉では、きちんと偽れていたのか自信は無い。
だけど、どうか気付かないで欲しい。

今の、この関係が壊れる事だって怖いんだ。だから出来れば一生、このままで。
壊れて、会えなくなるくらいなら。触れられなくなるくらいなら。話せなくなるくらいなら。このままで。

気まずくなるなんて、絶対に嫌だ。
そんなの、耐えられるはずが無い。俺の人生にこいつがいなくなるなんてことは、想像しただけで寒くなる。
だから、生涯、親友と言える仲のままで。
それが、一番、俺の幸せだから。

「俺のも、無くなったな……」
飲んでしまったジュースの、空になった底を、見つめた。
俺の思いも、飲み干せてしまえば良いのに。

言えるはずも無いだろう。
ずっと、お前に恋してる、なんて。


きっと、報われない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ