忍たま現代

□迷子ですよろしく
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「まずい……迷った」

学校内で迷子になるとかありえないなあ。しかも、三年間も通った学校で。
とは言いつつ、何でだろう、結構な頻度で迷子にはなっている気がする。
その度に探しにくるのが――
「三之助、お前っ!!またかよ、ほんといい加減にしろよ!!」
ブチ切れながらも迎えに来てくれる同級生、富松作兵衛。良いヤツ。
「左門も今つかまったばっかなんだよ!お前ら二人ってほんと何でいっつもそうなんだ!?」
ほら、手。と自然に捕まらせてくれるその手のひらを握る。

最初の頃は「あの子達、手つないでる!」と、からかいを含んだ声で言ってくる奴らも居て。作兵衛はいろんな人の目が気になったのか、たまに真っ赤になって手を離していた事もあった。
それでも、その人たちの前を通り過ぎたら、またぎゅうっと手を握ってくれた。
恥ずかしいなら、手くらい別に繋がなくていいのに、と思って。言ったことがある。
そしたら、
「ダメだ、お前らすぐどっか行くから!」
とか、怒鳴られたっけ。
責任感強いのかなあ、作兵衛。と思ったけど、……やっぱり繋いでくれる手は嬉しいと感じたものだ。

今はもう恥ずかしいなんて一切思っていないようだ。周りの声も全然気にならないらしい。当たり前みたいに繋ぐその手は、力強い。
気にならない、と言うよりも、最近では繋いでいる時いつも怒っているし、もはや俺は引きずられているに近いから、そういう意味で恥ずかしいなんてことは思わずにすむのだろう、多分。
相変わらず、注目はされているようだが。

「ほんと、俺がいなくなったらどうすんの、お前」
ああもう、と怒りながら、作兵衛が叫ぶ。今通った人が、驚いたようにこっちを見てたけど、多分作兵衛は気にしていない。俺も、別に気にならない。
それよりも、ひっかかったのは、作兵衛のさっきの言葉。
「……どうすんだろ」
自分の心が、ポロッと漏れたように声が出た。
「はあ?!俺に聞くなよ!」
知らねえよ、と作兵衛は流した。だけど……その言葉は、ひっかかったまま。
今考えてもしょうがないことなのだろう。結局、その時になってみないと、分からないんだから。どうしようもない。
でも実際、どうなってしまうんだろう。やっぱり、考えずにはいられないみたい。
いつも迎えにきてくれた、優しい手。今まで当然のように繋いでいた手が、離れる。想像も出来ない。
じいっ、と繋がれた手を見つめて。作兵衛の手って結構しっかりしてて、でも綺麗だな、とかあんまり関係ないこともぼんやりと頭の片隅で考えた。

「作。……作兵衛」
「あ?」
「手、離さないで」
「は?ちゃんと握ってんだろ」
ぐい、と更にひっぱられて、つまづきそうになる。うわ、と小さく叫んで、バランスをとって、なんとか転げないように踏ん張った。
そうじゃないのに、と心の中で呟いたけど、もうそれは口に出さなかった。
「離せって言われても離さねえから安心しとけっ」
「!」
もちろん“教室まで”なんだってこと、分かっているつもりだ。
だけど、どうにも口の端が上がってしまう。ああ、駄目だ。振り向かれたら、何笑ってんのお前、って怪訝な声で言われるだろう。

「作兵衛、いつもありがと。……これからもよろしく」
「はっ?何だよいきなり……」
作兵衛の顔は赤かった。だけど、途中で気づいたように。
「……、つーか、ちょい待てよ!?これからもよろしく、って何時まで世話させる気だお前!」
ふふっと笑ったら、ふざけんなーっ、て怒られた。
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