忍たま現代

□君が不機嫌なワケ
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「ねえ兵太夫、何で機嫌悪いの?」
放課後。三治郎が兵太夫に話しかけた時には、もうすでにぶすーっと頬を膨らましていて、「どうしたの?」と聞いても、「別に」と言うだけ。
さっきからもう何度もこのやり取りを繰り返している。
「何かあった?兵ちゃん」
眉をさげて、困り顔で三治郎が聞く。
「別に……何もないってば」
そんなわけが無い。
こんなに怒ってる兵太夫は、三治郎でさえ今までの付き合いの中であまり見た事がなかった。

しばらくはどうしたの、と聞いていただけだった三治郎も、ふう、と困ったように息吐いて、兵太夫の目を覗き込む。
「ねえ、いい加減話してよ」
「何も話すことなんかないけど」
それでも、プイ、と横を向いてだんまりを決め込む兵太夫に、ついに痺れをきらした三治郎は、
「兵ちゃん!」
兵太夫の顔を両手で挟んで、ぐいっと無理矢理自分の方へ向けた。
「不機嫌にしてても分かんない。ちゃんと、言葉で言って」
じ、と目の前の目を見つめる。
見つめられて、急に困ったような目になった、兵太夫は。
「……三ちゃん、今日女に告白されてた」
ぼそっ、と吐き出すように呟いた。
「え?」
それは、ほとんど聞きとれないくらいの小さな声。兵太夫の顔を見れば、むすっと拗ねたような顔をして赤くなっていた。
「え、え?」
(確かに、今日の昼、僕はよく知らない女の子に告白されたけど)
「でも、断ったし……」
兵太夫の顔を見ながら、考える。
そもそも、何で兵太夫知ってんの。というか、そんな事でこんなに不機嫌になってたの?
「何でそんな事で、」
「そんな事!?」
目線を下に向けていた兵太夫は、ガバッと勢いよく顔をあげたかと思えば、すぐさま三治郎を睨みつけた。
「僕にとっては重大な事件だよっ!」
「え〜、何もおきてないのに?」
眉をひそめて見返す。
「でも、ムカつくっ!!」
兵太夫が怒りをあらわにした。
僕の三ちゃんに……!あの女、再起不能にしてやりたい!とかブツブツ怖い言葉が兵太夫の口から紡がれる。
(怖い、怖いよ兵ちゃん。だって君、本気でやりそうなんだもの。目がマジだよ)
「何それ、僕にどうしろって」
「告白されないでよ」
「えぇ、何その要求?」
「じゃあ、そんな告白、無視してよ」
「それもちょっと、人としてどうだろう……」
まがりなりにも自分に好意を抱いてくれて、しかもその想いを告げてくれた人を無下に扱うなんて、いくら何でもそこまで出来ない。

三治郎がどの要求にも、うん、と言わないからなのか、う゛ー、と兵太夫は不機嫌そうに唸った。
「兵ちゃん……?」
おそるおそる兵太夫に声をかければ、むくれた顔を三治郎に向けて、キッパリと言いのけた。
「僕以外見ないで!…………絶対、ずっと、生涯。僕以外を、見ないで」
そこには、すがる様な声も含まれている様な気がした。

ぽかん、とした顔の後、それから、ふふ、と笑った三治郎。
「もとから、兵ちゃん以外なんか見て無いよ」
「!!…………三ちゃん、ずるいよ」
兵太夫は、ぎゅう、と三治郎に抱きついて、
「ごめんね」と、小さく謝った。
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