ヤンキー君とメガネちゃん

□3月14日
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学校に着いても、落ち着かない。むしろ、更に焦っているかもしれない。
花の顔を見るたびに、本人は自覚が無いのだろうが顔は真っ赤になるし、行動もおかしい。そわそわとして、目があえば教科書に顔をひっこめた。お約束で、その教科書の上下は反対。

「品川君?」
「んッ?」
「どうかしましたか?」
あまりの奇妙な行動に、かなりの鈍感な花も、さすがに変だと気づいた様子。品川に近づくと、上下反対の教科書の中を覗き込む。
「なな、なんでもねえから!気にスンナッッ」
その言葉さえ不審なのだが、花にはなんとかごまかせたようで、「そうですか?」といいながら、自分の席に戻っていった。

「あ、あぶねええ〜〜・・・って何がだよ?!今渡せば良かったんじゃね!?何してんの俺!」
ひとりでホッとしたりつっこんだり焦ったりと忙しい品川。見ているぶんには面白いのかもしれないが、本人はいたって真面目なのだから笑ってはいけないだろう。

その後も毎回毎回休み時間になるたびにそわそわと花のほうを見るが、立ち上がりかけて座り、話しかけようとしては言葉につまり、で何も進展しなかった。

そうして結局、その日の放課後。
「もう無理だろ・・・!」
手のなかには少しリボンのよれたあの箱。
誰もいない教室の中で、あきらめたように呟いてもう帰ろう、とした瞬間に。
「!!」
ガラッ、と扉の開く音。
見れば、そこには花の姿。
「品川君?帰らないんですか?」
そういって話しかけてくる花。それを見ながら、もう最後のチャンスじゃねえかコレ!?、と心の中で叫ぶ。

「あの?」
(はやくはやくはやく)
「品川くん?」
(渡せって俺!)
「大丈夫ですか?」
(こんなの何でもないだろ。早くしねえと)
「あの、私、・・・帰りますね?」
(早く!!)
「それじゃぁ、「足立!!」
精一杯の力を振り絞って、声を出した。その声に反応して、花の動きが止まり、品川の方を振り向いた。その顔は不思議そうな表情で。
「え?何か・・・」
ドクドクという心臓の音で、花の声が遠く感じる。
お返し、なんだからこんなん何でもねえだろ・・・!、と自分に言い聞かせてみても、うるさい心臓の音は止むはずも無かった。

「こ、れ・・・」
それでも品川はかすれる声で、なんとか手の中にあるものを示す。
「お前に、やる」
ぐい、と花の手に押し付けた。
とりあえずでも、今日渡せた事に安心して、やっと一息できると前を向いて花の顔を見る。
「何ですか、これ・・・?」
――は?
パカッと品川の口が間抜けに開いた。
「な、何って今日ホワイトデーっ・・・」
「あぁ、そうでしたね」
思い出したような、その反応。
「忘れちゃってんのかよ!!??」
今日一日、これまでの俺の行動は何だったんだ!?
と、品川が絶望感に打ちひしがれたその後に。

「嘘です。ほんとは、何にもくれないかな、って残念に思ってました。・・・嬉しいです」
にこり、と笑った顔が、この上なく可愛くて。不覚にも、ときめいてしまった。
(こいつは、ずるい)

これからも、こいつに振り回される人生なんだろうな、と思ったら笑えてきた。
でも、不思議と嫌な気分じゃない。
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