ヤンキー君とメガネちゃん

□お前、好きな奴いるか
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「香川」
静まり返った放課後の教室、北見の声が、小さく響いた。
その言葉が自分を呼ぶものだと気づいた香川は、北見のほか、誰も居ない教室の中、声のしたほうに寄っていく。
「何だ?」
「お前、好きな奴いるか」
「?」
突然話し出す内容としては、少しばかり不自然と思える北見の言葉に、首を傾ける。
「どうした、いきなり」
「別に」
聞いてみたくなっただけだ、と周りからは不機嫌に見えるだろう顔で、そっけなく北見は言った。

「で、どうなんだよ?」
まだその話は続いていたのか、と香川は思いながら、
「言わなければならないのか」
と、一言北見に向かって吐き出す。
そんな言葉を言われると思っていなかったのか、北見は顔をしかめた。それから、「出来れば」と小さな声で。呟くみたいに、言った。

「何で知りたがるんだ?」
「・・・」
しばらく北見の返事を待っていた香川は、いつまでたってもかえってこないので、北見の答えを聞くのをあきらめて、背中を向けた。
そうして、もう帰ろうと歩き出そうとし始めた香川の腕に、ふいに、力が掛かった。

「待てって」
北見がぐい、と香川の腕をひっぱって、引き寄せる。
無表情な香川が、少し驚いたように眼を見開いた。

ぐっ、と北見が握っていた腕に、力を込める。香川の顔が、少し歪んだ。
「なんでなんてそんなの、」
そこで、ぴたりと北見の言葉は止む。

じぃ、と香川がそんな北見の顔を見続けていると、耐えかねたように北見は、やっと口を開いた。
「っ・・・好きなんだよ!気づけよ!!」
ほとんど怒鳴るように北見が叫ぶ。
「え、」
ぽろりと香川の口から小さな声が漏れた。

その声にハッ、と我に返った北見は、
「え?」
・・・え!?何言ってんだ、俺。
と、冷静になっていく頭で考えた。
(俺、何言った?今、香川に向かって――)
さっき自分がした発言を、頭の中で思い返す。ぼっ、と急に顔に熱が集中した。
「ち、違・・・今のは、」
慌てて何か言おうと香川の顔を見たら、
「・・・え?」

香川の顔も、真っ赤だった。
「え?あれ、お前、・・・」
何だ、その反応。
「香川?」
ゆっくりとその赤い顔に手を触れると、びくり、とその男は身体を奮わせた。

顔を覗き込んでも、香川は目を合わせようとしなかった。
「香川」
なぁ、なんでそんな反応すんだ、お前。



それじゃあまるで、

好きだと言ってるみたいだ。

(期待、しても良いのか?)
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