ヤンキー君とメガネちゃん

□私の大切な人です
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「ねぇ、かっこいい子が足立さんの事待ってるみたいだよ!」
わいわいと、花の周りに集まる人たちが多くなってしばらくしたある日の放課後。
ばたばた足音を立てながら教室に戻ってきたクラスメイトのひとりが、花に向かってそんな事を叫んだ。

「は?」
花の近くで、帰ろうと腰をあげようとしていた品川は、その言葉にがたり、とイスから転げ落ちた。

「誰だれ?彼氏?」
クラスメイトの視線が花に向く。
「え?」
花は待たれるような人に心当たりは無いらしく、困った顔をしていた。
それから、周りをきょろり、と見渡して品川がいるのを見つけると、こっそりと近寄る。
「あ、あの・・・不良、じゃ無いですよね?ばれたりしてませんよね?」
不安げな声。
「え、違う、だろ」
多分、といえば、また花は心配そうに眉をひそめた。

「つーか、見てもねーのにわかんねーだろ。どんな奴だよ」
品川がそう言えば、先程花を待っている男がいる、と知らせたクラスメイトが口を開いた。
「えっとねぇ・・・多分、あげは?の制服っぽかったよ!あ、ちょっと足立さんに雰囲気似てるかも?」
それからその子は、頭のてっぺんをぴょん、と指差して、花の特徴である、いわゆるアホ毛の事を言っているようだった。
「ん?ちょっと待て、それって・・・」
品川が、眉を寄せて、その特徴から連想する人物を考える。心当たりが、ひとり。

「え、知ってるの?」
花に向いていた、何人かのクラスメイトの目が、今度は品川に向いた。
「うーん、多分、」
ぽつりと呟いて、それから品川は、もう一度口を開いた。
「いや、それってよ、葉じゃねぇ?」
「え、葉君ですか?」
花が、きょとん、とした顔で品川を見る。

「え、え、誰っ?」
品川に移っていた目線が、もう一度花に戻る。
「やっぱり彼氏?」
興味津々の、クラスメイト達。
「いえ、違いますけど・・・」
そんな期待を裏切るように、花はハッキリ言った。
しかしそれから、
「でも、私の大切な人です」
と、満面の笑顔。
瞬間、きゃー!と複数の女子が叫び声をあげた。
「えーー足立さんの好きな人ってこと!?」
ぎゃあぎゃあと、女子たちの声が響く。

「いやいやいやいや!おまえ、誤解招く表現すんな!!」
そんな状況で、花を待つ男、の正体を知っている品川だけが、花に大声でツっこんだ。
その声に、どういうこと?、とまた、視線が品川に集まる。
「葉ってのは、足立の弟だよ」
言えば、
「なぁんだぁ、期待したのにぃ」
と、ところどころから、ため息が聞こえた。
「なんの期待だよ」
ぼそり、と品川が呆れたように呟いたが、その品川も、内心皆の様に期待ではないにしても、『花を待つ男』の存在を聞いた時に焦りを抱いていたのは、言うまでも無い。

「でも、足立さん美人だから、弟もかっこいいんだね〜」
思い出したようにひとりのクラスメイトが呟いた言葉で、
「あ!そういえば葉君、待たせちゃってるみたいなので・・・」
帰ります、と花が言う。

「それじゃあ、品川君、また明日!」
手を振りながら教室を出て行く花に、品川も「おう、明日な」と手を振りかえした。

(あー、くそ、焦った)
花が出て行ってから、すぐ、品川が大きく息を吐き出したのを、クラスメイト達は見たと言う。
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